運動会や、遠足など、秋は何かと忙しい!そんな日常だからこそ、通勤時間や寝る前のひとときに、本の世界に浸ってみてはいかが?働くママのお仕事小説、2人の視点で語られる友情物語、復讐について考えさせられる物語…あなたはどれが気になりますか?

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困難に立ち向かう!働くママの痛快ストーリー

ファッション雑誌編集部で副編集長として働く37歳の七瀬和美。ハードな仕事と育児との両立の中で、男社会での出世競争からの脱落、小学1年生の娘の学校でのいじめ問題など、困難が次々に押し寄せて、辞めたくなってしまいますが…。

碧野圭「辞めない理由」(PARCO出版)※ほかに光文社文庫、実業之日本社文庫あり

部下や上司に足を引っ張られ、同僚からは嫉妬され…

女性ファッション誌「Fame」の副編集長としてバリバリ働いてきた和美。小学生の娘・絵里がいるからといって仕事に支障が出ないように、夫の治彦の手もなるべく借りず、ベビーシッターを雇いながら、地道に頑張ってきました。

ところが、ある日突然副編集長を降ろされることに!どうやら「女の上司なんて」という態度の部下たちや、同僚の女性が、飲み会の席で部長に悪い噂を吹き込んだ模様で…。

「そんなことで人事が決まるのか」と落ち込む和美に、学生時代の友人は「組織なんてそういうところ。人間関係にも気を配るべき」「あなたは何でも持ってるから、同じ女性に妬まれている」と厳しい現実を教えてくれます。

そうは言っても、会社で仕事を一生懸命するだけではダメだなんて、なかなか納得できない和美なのでした。

個人面談で先生と対立!もう学校も仕事も辞める!?

意に沿わぬ異動が決まって落ち込んでしまい、仕事を休んだ和美。そんな和美に追い打ちをかけるように、初めての小学校の個人面談で、熱血風の担任教師・水沢から「娘さんが人付き合いが苦手なのは、お母さんの愛情が足りないからでは」と言われます。しかも「クラスの子が娘さんのことを気味が悪いと言っている」と聞き、かっとなって「こんな学校、辞めさせます」と言ってしまい…。

それからしばらく、和美と絵里は仕事と学校を休んで2人の時間を過ごします。日頃忙しくて、家の中でゆっくり2人で過ごすことがほとんどなく、戸惑う様子が妙にリアルです(笑)。

結局、絵里は一部の女子からいじめられていたことが判明。水沢先生が謝罪に来てくれたので、今の小学校を辞めずに通うことにします。そんな絵里に励まされ、和美も異動しても仕事を辞めずに続ける決意をするのでした。

異動先は閑職?でも「働く母親」のための雑誌を創刊!

ファッション誌とは別の部署に異動になった和美。そこは、「新雑誌準備室」というのは名ばかりの、一癖あるメンバーばかりが集まった部署でした。それでも社内報のインタビューなどの仕事をこなすうち、需要があるはずの「働く母親」のための雑誌を創ろうと思い立ち、あれこれと準備を進めます。

周囲の意見を聞き、助けを借りながら仕事を進めていくうちに、これまでの自分のやり方ではダメだと気付く和美。さらに、様々な奇跡が重なって、ついに働く母親のための雑誌「ワーキング・マザー」は完成するのでした。

思わず泣いてしまいそうな娘のひとこと

(和美と夫の治彦が口論しているのを聞いて、娘の絵里が)

「ママは最近会社で嫌なことがあったんでしょ。ママは何も言わなかったけど、絵里は知っていたの」

「それなのに、パパまでママをいじめないで。ママが可哀そうじゃない!絵里はママの味方よ!」

夫から本当に言ってほしかったのは、この言葉だったのだ。何もわからないと思っていた幼い娘が、誰よりも自分の気持ちをわかってくれていた。

雑誌「ワーキング・マザー」の取材で、和美がインタビューした女性アーティストのMIMOZAが育児についてこう語るシーンがあります。

母と祖母に愚痴を聞いてもらったら、母は子どもを見て「ああ、この子はあんたの小さいころそっくりだ」って言ったの。

そうしたら、祖母が母に向かって「あんたもおんなじだったよ」って。そんなふうに命は続いているんだ。

その流れの中に自分はいるんだ、と思ったとき、いろんなことがすごく小さく見えてきた

母と祖母に会って、長い時間の中で見れば、5年や10年の空白なんてたいしたことない、って思えた。そのときから自分を追い詰めるのをやめた。ただただ今のこの瞬間を大事にしようと思った

出産・育児期間のために思うように働けない、と焦燥感を抱く多くの働く母親に、強く響く言葉じゃないかな、と思いました。実際は5年や10年なんて考えられず、1日を乗り切るのに精一杯かもしれませんが…(涙)。

この本が出版されたのは2006年。その頃に比べると働く母親向けの雑誌も増え、得られる情報も多くなったと思いますが、会社での働きづらさや家事・育児との両立の大変さは、残念ながらあまり変わっていない気がします…。

そんなこともあり、働く母親だけではなく、父親や独身の方々にもぜひ読んでほしい本です。ちなみに、碧野圭さんのほかの作品では、「書店ガール」シリーズもおすすめ。書店で働く女性が主役で、紆余曲折ありつつも、最後はスカッとするところが好きです。

正反対の2人が大親友に。女子の成長物語

「大きい穴」と書いて「ダイアナ」と読む変わった名前の女の子と、清楚で芯の強い優等生の彩子が主人公。小学校3年生で同じクラスになった2人は、「本が大好き」という共通点から大親友に。育った環境も外見も全く異なる2人の、お互いに対する視点が新鮮です。

柚木麻子「本屋さんのダイアナ」(新潮文庫)

金髪で、母親はキャバ嬢。素直になれないダイアナ

矢島大穴(ダイアナ)は、自分の名前も、16歳で自分を産んだ母親のティアラ(本名は有香子)も、ティアラが染めた金髪も好きじゃない8歳の女の子。名前や外見のコンプレックスのせいで友達がいませんでしたが、3年生になって初めて神崎彩子と友達になりました。

彩子の服装や持ち物、本がたくさんの家、手作りのおやつ、落ち着いたお母さんや包容力のあるお父さんなど、全てが憧れの対象です。そんなダイアナの将来の夢は、自分の好きな本だけを置いた本屋さんを開くこと。名前や外見の悩みを抱えながら、少しずつ成長していきます。

編集者の父と、料理の先生の母。冒険に憧れる彩子

3年生になったばかりの日、名前について友達にからかわれていたダイアナをかばった彩子。実は図書館でダイアナをよく見かけていて、きれいな子だなと気になっていたのです。

ダイアナのキラキラのランドセルや、おうちで食べるジャンクフードなど、家では許してもらえないものばかりの自由な生活に彩子はうっとり。お姫様みたいなお母さんや、お父さんがいないことさえもロマンチックに感じて、一緒にお父さんを探そうとしたり、ダイアナと離れたくないあまりに自分と同じ私立中学の受験を勧めたりします。

高卒のダイアナと、大学進学の彩子。2人の道は…

小学校6年生の卒業間近に、些細なすれ違いから絶交してしまったダイアナと彩子。それからは近所で出会っても話す事もなく、2人はそれぞれの道を歩んでいきます。

ダイアナは高校を出て書店員になり、自分の欠点を改めて知りながらもなんとか頑張っていきます。一方、彩子は私立の女子高から受験して、共学の大学に進学。ところが思わぬ災難に遭い、そのせいで思い描いた大学生活からはずいぶん遠ざかってしまいます。

相手のことを気にしながらも、今の自分に自信が持てず、卑屈になってしまうダイアナと彩子。そんな自分で自分にかけた「呪い」を自分の力で解いたとき、2人は再会して…。

女の子の友情について、納得のひとこと

(赤毛のアンシリーズ「アンの愛情」という本をダイアナに勧めた作家が)

「みんながみんな、アンみたいに飛び立てるわけじゃない。ほとんどの女の子は村で生きていく。脇役のダイアナこそが多くの女の子にとって等身大で、永遠の“腹心の友”たるべき存在だから…。」

本文で引用されている「アンの愛情」のあとがきには、ダイアナが欲しかった言葉が書いてありました。

人生には、待つということがよくあるものです。自分の希望どおりにまっしぐらに進める人はもちろんしあわせだと思いますが、たとえ希望どおりに進めなくても、自分に与えられた環境の中でせいいっぱい努力すれば、道はおのずから開かれるものです。こういう人たちは、順調なコースにのった人たちよりも、人間としての厚みも幅も増すように、わたしには思えるのです

「待つ」ことがとても多い育児。この言葉には、私もすごく勇気づけられました!

また、同じ引用にはこんな一文もありました。

女の人のあいだでは、相手が自分と同じ境遇にいるときは仲よくできても、相手が自分より高く飛躍をすると、友情がこわれるというばあいがないではありません。

子どもの頃や学生時代は仲良くしていても、就職先や既婚・未婚、子どもの有無…という環境の違いで、友達と疎遠になっていく…というのは、誰もが経験したことがあることではないでしょうか。仕方がないとわかっていても、ちょっぴり淋しい。そんな気持ちに寄り添ってくれるような物語です。

10年間も仲違いをしていたダイアナと彩子は、その後どうなったのでしょうか?それは読んでからのお楽しみです(笑)。

柚木麻子さんの作品といえば、思わぬ視点で仕事の仕方を学べる「ランチのアッコちゃん」シリーズも面白いですが、アラサー女子4人組の友情を描いた「あまからカルテット」もおすすめです。

合法的に「復讐」できるとしたら?近未来小説

時は20××年。凶悪な犯罪が増加する日本で、新しい法律「復讐法」が生まれました。それは、被害者、あるいはそれに準ずる者が、犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として執行できるというもの。ただし、自らの手で。物語は、その刑の執行を見守る「応報監察官」鳥谷文乃の視点で進みます。

小林由香「ジャッジメント」(双葉文庫)

拉致監禁・殺害された16歳の息子。その父親の場合

応報監察官・鳥谷文乃の仕事は、旧来の法に基づく判決ではなく「復讐法」を選んだ「応報執行者」が、刑を執行するのを見守ることです。

今回の応報執行者である天野義明は、16歳の息子・朝陽を殺されました。19歳の4人の少年に拉致監禁され、激しい暴行を受け、4日目に殺害されたのです。

復讐法を選んだ義明は、主犯格の少年に息子が受けたのと同じ暴行をすることに。息子がどれほど痛かったか、苦しかったか、思い知らせようとする義明。相手を傷つけながら、自分も傷ついて苦しみます。

そこに主犯格の少年の母親の想いも重なり、ただ見守ることしかできない文乃のやるせなさを感じます。

白昼に起きた無差別殺人被害者3人。その身内の場合

土曜日の午後、とある大通りで起きた無差別殺傷事件。3人が死亡、5人が重軽傷を負ったこの事件の犯人は27歳無職男性でした。

男性が心神喪失のため不起訴となるか、復讐法を適用するかという選択を迫られるのは、母親を殺された川崎景子、弟を殺された久保田航平、婚約者を殺された遠藤武の3人。応報監察官・鳥谷文乃のもと、3人は復讐するかどうかを話し合います。

絶対に復讐すると言い張る久保田、自らの手で人を殺すことにためらいつつも、復讐を選んだ景子、そして婚約者のために復讐を選ばなかった遠藤。それぞれの隠された想いや、身近な人を失った悲しみが、胸に迫ります。

母親とその恋人に虐待・殺害された妹。その兄の場合

応報執行者は10歳の少年、森下隼人。母親の麻希子とその恋人の本田隆男に、当時5歳の妹・ミクとともに虐待されていました。暴力をふるわれ、食べ物を与えられず、小さなミクが弱って死んでいくのを目の前で見ていた隼人は、実の母親への復讐をためらわずに選んだのです。

麻希子と本田に食事を与えず、自分たちと同じようにゴミ袋に入れて弱っていく様子を観察する隼人。母親が餓死するまで見届けるという少年の精神状態を心配した応報監察官・鳥谷文乃は、隼人と交わした会話をヒントに食事を差し入れ、何かと気遣います。

やがて、本当の復讐の意図がわかったとき、隼人は、そして文乃は…。

私が本屋さんで目を留めた帯のひとこと

大切な人が殺された時、あなたは『復讐法』を選びますか?

作中で、応報執行者(つまり、復讐を成し遂げた被害者遺族)からの感謝の手紙が届く場面があります。

復讐法がなければ、私は刺し違えてでも犯人を殺していたでしょう。復讐法に感謝しております

という文面です。
5つの章から成るこの作品では、復讐を果たすことで救われる遺族がいる一方で、復讐したことで犯罪者と同じ「人殺し」になってしまったと、さらに深い苦しみを背負ってしまう遺族もいることが描かれています。

これは近未来小説であり、架空の話ですが、実際に身近な人が犯罪被害に遭ったり、児童虐待のニュースなどを聞いたりすると、「同じ目に遭わせてやりたい」と思うことがあるかもしれません。そんな、人の心の奥に潜む願望をえぐるような作品です。

本屋さんでたまたま帯に目を留めて、内容に興味を持ったので購入したこの本は、作者の小林由香さんのデビュー作だそうです。2作目もぜひ読んでみたいです。

この記事を書いたライター

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ふみきさん

福岡出身、大阪在住のまあまあフリーなライターです。夫と娘2人の4人暮らし。趣味は本屋巡り&図書館通い。忙しいママにおすすめの本や漫画をご紹介します♪

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