異文化の中で、いろいろな世界観を知るということはとても貴重な経験。だけど、どうにも理解しがたい文化の壁を感じることだってある。銃が日常的に存在する国、アメリカ。この国では、ほんの小さなことが命取りになりかねません。

え!!なんでうちの庭に人がいるの!?

夕方、ふと庭を目をやると、人影が3つ。「え!?誰!?何!?」と、小心者の私、本気で動揺しましたよ。家の中を見る、わが子はここにいる、そして再び外をを見る、落ち着いてよーく見る、すると、近所に住む子どもたちでした。

慌てて庭に出て話をすると、うちの庭に入ったゴルフボールを取りに来たとのこと。庭は高さ2mくらいの柵で囲まれているので、塀を伝って柵を乗り越えて来たんだと。ボールを拾うと無言で来たであろう“道”を通って帰って行きました。

あまりにもびっくりして「気をつけて、危ないから」としか言えませんでした。子どもたちが安全なところまでたどり着くのを見届けてから家に入りました。

ちょっと、それってありなの!?

それから1時間くらいの間、子どもたちはゴルフボールをわが家の庭に打ち込んでは、遊ぶボールが無くなると、ボールを取りに柵を超えて庭に入ってくるということを5・6回繰り返していました。

「柵を乗り越えて、勝手に他人の家の敷地内に入るって、子どもならアメリカではありなのかしら?」と思いながら、私は家の中から子どもたちの様子を眺めていました。

ふと、ママ友が不動産管理をしてるのを思い出し相談。すると、ママ友は珍しく強い口調でこう言いました。

子どもと言えども、柵があってもなくても、それは不法侵入にあたり、完全にNGだわ!

やっぱり…。

“不法侵入”で子どもたちが銃殺されるという悲劇

名古屋市の高校2年生の男の子が留学先のルイジアナ州で銃殺された事件を覚えていますか?ハロウィンパーティ会場の家と間違えて別の家の敷地内に足を踏み入れた日本人の男の子が至近距離で射殺されてしまったのです。1992年のことでした。しかしこの事件、刑事裁判で被告は無罪となったのです。

というのも、「家は城である(Castle Law)」、つまり強盗など不法侵入者を万一射殺しても合法なので一切罪に問われないという法概念があるから。もともと英国法で発生した法概念だけど、ここサウスカロライナ州でも「人と財産の保護」を目的として、同様の法案が2006年に成立しています。

もし子どもたちが、もう少し暗い時間に、銃をリビングに常に置いているような家の庭に勝手に入っていたらと思うとゾッとします。なぜなら

うちは安全のために、いつでも銃を使えるように常にリビングに置いてあるよ

という話は周りで聞くから*。そう、アメリカは銃が日常的に存在する社会なのです。

* ここサウスカロライナ州の銃保有率は44.4%(data from Kalesan et. al., June 2015)。この数字には闇市場で入手されている銃は含まれていません。
* 銃の取り扱いに関する法は州ごとに違います。アメリカ南部は地域的な気質として保守的な傾向があり、銃規制に関しても反対意見が多いので他の州に比べて銃規制が緩い傾向があります。

銃を持つこと=国民の権利

アメリカ(の田舎)に来て驚いたことの一つに、「銃を護身用として持つことは当たり前の権利」という人々の認識。最初は全く理解できなかったけれど、時間をかけていろいろな人と意見を交わしているうちに、自分の常識が常識ではない社会に暮らしているんだとようやく気づきました。そう、そもそもアメリカでは「武器を所持して携帯する権利」が認められているのです(憲法修正条項第2条)。

だけど銃による子どもたちの悲しい事件事故は後を絶たない

アメリカでは、殺人や自殺のほか、故意ではない銃関連の事件や事故で、毎年1300人近い子どもたちが命を落としています(小児科学会誌で2017年発表、CNN)。

小学校内での銃撃事件・事故は度々起こっているし、誕生日プレゼントの銃で5歳児が誤って発砲し2歳の妹が死亡してしまったといういたたまれない事故も実際過去には起こっています。

小学校に行くと、かなりの頻度で警察が警備しているのを見かける

身近なところでも、娘が習い事に通うレクリエーション施設内で地元ギャングの抗争に巻き込まれた10代の女の子が射殺されるという事件、つい先日は子ども2人が母親によって銃殺されるという事件も(母親はその後、拳銃自殺)同じ市内で起こっています。

悲劇が繰り返されないために自分が出来ること

今回の一連の出来事、結局、先ほどの不動産管理の仕事をしているママ友を通して、庭に入って来た近所の子どもたちの親に連絡してもらうことにしました。子どもだからと大目に見ることもできたけれど、近所に住む大人として、少しでも責任を持った行動をしたいと思ったから。

子どもでもやっていいことと、やってはいけないことがあるし、大人だって、子どもだって、失敗の中からたくさん学べることはあると思うから。何よりも、他人の家の庭に入って、銃口を向けられるようなことがあって欲しくないから。

今回の件は、改めて、銃が日常的に存在するアメリカ社会で、安全に暮らすためにはどうしたらいいのかについて、自分の子どもたちとも話をするいいきっかけになりました。(そう、何事もポジティブに考えなくっちゃね!)

この記事を書いたライター

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大河内えりなさん

夫・娘9歳・息子7歳。小さい頃からずーっと転勤族。高知、千葉、札幌、神奈川、イギリス、再び神奈川。名古屋、タイ、東京、千葉、次はアメリカへ!

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