2児のパパ目線、そして新聞記者の目線で子育てや世の中の気になることを読み解く、高橋天地さんの「新聞記者パパのニュースな子育て」。今回は奥田瑛二さんの主演映画「洗骨」について。2人の娘の子育てに関しても。

映画「洗骨」で自身の子育てを振り返る

俳優、奥田瑛二さん(68)の主演映画「洗骨」(2月9日から全国で順次公開中)は、折り合いが悪くなった親子が和解へと至る心の軌跡を丁寧に描いた人間ドラマ。

©「洗骨」製作委員会

奥田さんは、妻に先立たれ、すっかり気弱になり、酒に溺れる日々を送る父親役を熱演した。本作への出演で「父は子どもとどう向き合うかを考え直す契機となった」と奥田さん。プライベートで2人の娘を一人前の社会人に育てた自身の子育てを振り返った。

自分の子育てが問われた

まずタイトルの洗骨とは何か。土葬や風葬を実施した後、数年後に死者の骨を海水や酒で洗い、再び埋葬する風習。本作の舞台となった沖縄県の粟国島などで残っているという。

©「洗骨」製作委員会

本作は、奥田がふんする信綱の妻、恵美子(筒井真理子さん)の洗骨の儀式を通して生命の尊さを訴えるとともに、家族のあり方を問うたものだ。

信綱(奥田さん)、父の荒れ果てた生活を見て苛立ちを深める長男の剛(筒井道隆さん)、シングルマザーとして生きていくことを決意した身重の長女、優子(水崎綾女さん)。洗骨の儀式を前に久しぶりに顔を合わせた33人の間には緊迫感が立ちこめていた。

「この人は考える能力なんかない」。身重の優子の恋人が信綱に結婚の承諾を求めて頭を下げた際、剛がおどおどするだけの信綱に吐き捨てた言葉だ。

©「洗骨」製作委員会

「確かに信綱はかなり情けない父親だ。僕は信綱を通して自分自身の生き方や子どもとの接し方が問われていると感じた」と奥田さん。

ふと思いをはせたのが、映画監督の道へ進んだ長女、安藤桃子さん(36)、女優を選んだ次女、サクラさん(33)の子育てだった。

「僕の思惑通りの道(映画監督)に進んだり、癖球(女優)を返してくるケースもあって驚いたり…。いろいろですよ」

父親の思惑に乗った長女、桃子さん

奥田さんは2人の娘に対し、基本は自分が教えられることしか教えなかった。

「自然と触れ合い、動物に親しんだりね。シンプルなもの。野山で遊んだ田舎育ちの僕の基本方針。あとは僕の芝居を劇場で見せたりもした。学校で教わる勉強はすべて妻(エッセイストの安藤和津さん)に任せた」。

その上で、娘たちには「小学校高学年になったら将来何になりたいかを決めなさい」と伝えた。

奥田さんは娘2人を映画監督にしたかった。自身も俳優の傍らメガホンをとってきた。「俳優もそうなんだけれど、映画監督は人間とは何か、をとことん学ぶことができる。こんなに面白い仕事はないからね」。

いずれ娘2人が映画監督に進むような「確信犯的な育て方だった」と自負していた。

「自然に親しめば、自然、環境、地球とは何か、と考えるようになる。おのずとそこで暮らす人間とはどんな存在か、も意識するようになるしょう。人間とは何か、を突き詰めるのが映画監督に必要な資質だと思う。あちこちに布石を打ったつもりです」

桃子さんは、小学生の段階で映画監督になることを人生の選択肢として強く意識し、やがて奥田さんの望み通りの道に進んだ。

自分の道へ突き進んだ次女、サクラさん

サクラさんについては「ずっと女優になりたかったようなふしがあった」と振り返る。奥田さんが挙げたのは、サクラさんが5歳のとき、自分の舞台を和津さんと鑑賞したときのことだ。

「次女は演技する僕を指さして“サクラ、あれになる”と妻に言ったそうです。妻は感激したそうですが、僕はこれはやばいぞ…。と思いました。女優になられたらちょっと困る…。」

なぜサクラさんが女優になってはいけないのか。大成せずに消えていった大勢の女優を見てきた奥田さんの言葉は重い。

「女優という職業は、奇跡の風でも吹かない限り絶対に成功しない。男優もそうですが、それくらい大変な職業。そもそも女優になれるわけでもないし、女優になったらなったで、僕は何も手助けできないですからね」

産経新聞写真報道局・酒巻俊介撮影

奥田さんは心の中でずっと女優にだけはなってくれるな、と考え、サクラさんの前で将来の話にタッチしないようにしていた。ところが、高校3年生となったサクラさんはある日、自宅で神妙な面持ちで奥田さんにこう切り出した。

「お父さん、お話があります」。2人は自然とお互いに正座で向き合った。サクラさんは単刀直入に「女優になりたいです」

やはりきたか。「いずれ言われるだろうとは思っていた」という奥田さん。

女優を目指すことを受け入れた上で「俺は一切、おまえの夢がかなうように、面倒は見ないし、手助けもしないし、便宜も図らない。それでもよければ自分の力でやってみろ」と返事し、サクラさんの決意を承諾した。

親の七光と言われても

サクラさんを突き放した意図はこうだ。「どんなに頑張っても、何をしても、娘は世間から“親の七光”といわれるに決まっているからね。

しかも、もし娘が女優になれなかったら…。失敗したときのことを考えると、やはり僕は結局、親バカになってしまい、助けてしまいそうですよ。それは絶対に嫌だったので…。」

サクラさんの決意は固かった。奥田さんの考えを受け入れ、自分なりに試行錯誤したようだ。その後、自分の力で飛躍を遂げた。

昨年、主演を務めた是枝裕和監督(56)の映画「万引き家族」は、世界三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭のコンペ部門で最高賞「パルムドール」に輝いた。

審査委員長のオスカー女優、ケイト・ブランシェットが授賞式後のパーティーで「サクラさんの演技はすばらしかった」と絶賛したのは記憶に新しい。

奥田さんは思う。「役者の家族は本当に切ないものなんですよ。ある程度、距離を置かなければならないから。ただ、娘2人に孫ができてから、僕はちょっと考えが変わったかな。

少なくとも孫についてはかわいくて、かわいくて…。すばらしいプレゼントだ。切なくなんかなくなってしまいましたよ」

  • 奥田瑛二(おくだ・えいじ)
    昭和25年3月18日、愛知県生まれ。俳優、映画監督。主な映画主演作は、「海と毒薬」(61年)、「千利休・本覚坊遺文」(平成元年、日本アカデミー賞主演男優賞)。近作は「散り椿」(30年)など。映画監督を務めた「長い散歩」(18年)はモントリオール世界映画祭でグランプリに輝いた。
    妻はエッセイスト、安藤和津。長女は映画監督の桃子。次女は女優のサクラ。
  • 安藤桃子(あんどう・ももこ)
    昭和57年3月19日、東京都生まれ。ニューヨーク大で映画作りを学ぶ。「カケラ」(平成22年)で映画監督デビュー。
    自身の小説を映画化し、監督と脚本を務めた「0.5ミリ」(26年、妹の安藤サクラ主演)は、報知映画賞作品賞や毎日映画コンクール賞脚本賞などに輝いた。
  • 安藤サクラ(あんどう・さくら)
    昭和61年2月18日、東京都生まれ。女優。主な映画出演作は「百円の恋」(平成26年、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞)など。
    リリー・フランキーとダブル主演の「万引き家族」(30年)はカンヌ国際映画祭で最高賞。NHK連続テレビ小説「まんぷく」(放映中)のヒロイン。

この記事を書いたライター

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高橋天地さん

1995年、慶應義塾大文学部独文学専攻を卒業後、産経新聞社へ入社。水戸支局、整理部、多摩支局、運動部などを経て、SANKEI EXPRESSで9年間映画取材に従事。現在は文化部。学芸班(文学)、生活班(育児、ファッション、介護、医療、食事、マネーなど)を経て、2017年10月から芸能メディア班に所属し、映画取材を担当。2019年5月1日より公式サイト「産経ニュース」のWEB編集チームに所属

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