「じっとしていない」「時間がないときに限ってぐずる」と仕上げ磨きに苦戦しているママやパパも多いのでは。3児のママで小児歯科医の伊藤織恵先生に、自身の経験も踏まえながら、忙しくても楽しくきれいに磨くコツをアドバイスをしてもらいました。

お話を伺ったのは

伊藤織恵先生( 医療法人 心音会 こどもの歯科院長 )

東京医科歯科大学歯学部小児歯科学分野医局員などを経て2010年、生まれ育った東京・目黒区祐天寺で開業。日本小児歯科学会、日本小児外科学会会員。中学生、小学生、幼稚園児の3人の子育てママでもある

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仕上げ磨きの基本姿勢

仕上げ磨きの基本姿勢は、年齢にかかわらず「寝かせ磨き」です(※上イラスト)。お母さんの股の部分に頭を置いてあおむけに寝かせましょう。立たせ後ろ磨き(スターキーズポジション)という方法もありますが、子どもの身長やママの体形の変化で見え方が違ってくるので磨き残しの原因にも。

膝と肘を、まっすぐ伸ばすのもポイントです。関節が曲がっていると動いて危ないからです。よく動く子には、手鏡を持たせてあげて。「何をしているのかな?」「もっと見たい!」と興味が湧いて、自然に口を開けてくれやすくなります。

仕上げ磨き3つのポイント ~ ちょっとの工夫でお口ピカピカ!

1.利き手でない方の手で補助する


歯ブラシは、歯の面に垂直に当てます。大人は斜め45度が基本ですが、子どもの場合は90度に当て、ほうきで汚れを掃き出すイメージでこきざみに動かします。奥歯を磨くときは、利き手でない方の指で頬を斜め上に引っぱるとよく見えます。横に引っぱると痛いので気を付けて。

2.爪が白くなるくらいの優しい力加減で


理想のブラッシング圧は100~150g。歯ブラシを爪に押し当てて、爪が白くなるくらいが目安です。パパは力が強くなりやすいので気を付けて。爪を歯、指を歯茎に見立てて、爪の付け根に歯ブラシを当てて動かし、痛くない力加減を確認しましょう。

3.人さし指でガード


上唇の裏側にある筋「上唇小帯(じょうしんしょうたい)」は、歯ブラシが当たると痛い場所。上の歯を磨くときは、人さし指でガードして。動きが活発になる3~4歳ごろから虫歯になりやすいのが前歯の外側です。甘い飲料を飲んでから走ったりすると、息が上がって口の水分が蒸発し、乾燥した歯に糖分が残るためです。丁寧に磨いてあげてください。

こんな時どうする? ママのお悩みQ&A

question歯磨きを好きにさせるには?

家族がブラッシングしている姿を見せよう

ママが気持ちよさそうに歯磨きする姿を見せるのが一番。わざと見える場所に座って、手鏡を持って楽しそうに磨いてみましょう。きっとマネしたくなるはず。絵本を使うなら、虫歯を怖がらせる内容よりも、歯磨きそのものを楽しむシンプルな内容がお勧めです。

question嫌がらないコツは? 泣いても続けるべき?

対策は段階に応じて3つあります。

STEP1
まずは、そもそも嫌がらないように、歯が生える前から歯ブラシに慣れさせる準備を。いきなり口に入れないで、足→手→顔→唇、と少しずつ口の中へ近付けていきましょう。
STEP2
一気に磨かないで、一回一回ブラシを出すこと。ゆっくり呼吸したり、唾液を飲み込んだりできる時間をつくってください。
STEP3
それでも嫌がるなら、一回の目標の秒数を決めます。できたら褒めて、少しずつ秒数を長くします。最初は2秒でもOK。短過ぎるなら「いーーーち、にーーーい」とゆっくりカウントして時間をかせぐなど工夫を。泣いて嫌がっても、約束したら必ず守らせる根気も必要です。

question授乳の後はどうすればいい?

見逃しやすい上の前歯の裏を清潔に

赤ちゃんが慣れないうちは濡れたガーゼで汚れを拭うだけで構いません。上の前歯が生えてきたら歯磨きを。虫歯になりやすいのは、乳首が当たる歯の裏側。特に唾液が届きにくい上の前歯の裏側は、きれいにしてあげましょう。

歯の裏は見えにくいので表面をなでるだけになりがち。小さなタフトブラシ(下写真参照)を垂直に当て、歯間の汚れを丁寧に落とします。目的は汚れを落とすことなので、歯磨き粉は不要です。

きれいに磨けるお助けアイテム

仕上げ用歯ブラシ ※写真右

柄の形は、ママがペン持ちしたときに握りやすい角ばったもの、親指が置きやすいように設計されているものがお勧め。毛先はある程度コシのあるものを。1カ月ごとに交換するのがお勧めです。歯の生え始めは歯ブラシをかみたがるので、かむ専用の歯ブラシを別に用意してあげるといいでしょう。

タフトブラシ ※写真中央

一番汚れがたまりやすい前歯の裏側は、タフトブラシを使うと磨きやすい。毛先が三角にとがったもの、丸くカットされたものがあるので、使いやすい形を選んで。

糸ようじ(フロス)※写真左

4~5歳を過ぎて奥歯ですりつぶすようになると、歯と歯の間の虫歯が増え始めます。これを防ぐには糸ようじが効果的。上の歯が生えてきたら一度、歯医者さんで使い方の指導を受けてみて。

手鏡

自分が何をされているのか確認できれば興味がわいて口を開けてくれやすくなります。機嫌が悪いとき、ぐずったときにも重宝。100均ショップの鏡で十分です。好きなキャラクターのシールを貼るなど工夫してみて。

余裕がなければ上の前歯の裏を最優先

完璧でなくてもいい。まずはママがリラックス

仕上げ磨きは上の前歯が生えたら真剣に取り組んでほしいのですが、完璧である必要はありません。「一日のどこかできれいに磨ければいい」「余裕がなければ、上の前歯の裏側だけはしっかり」くらいの気持ちでリラックスして臨んでください。

◇よく磨きたいのはココ!

磨き残しが多くて汚れがたまりやすいのは、上の前歯の裏側と奥歯。唾液腺は舌の裏側にあるので、下の前歯の方が虫歯になりにくい。切羽詰まってどうしても時間がとれないときは、せめて上の前歯の裏だけはしっかりと!

◇磨く順番は上から

上の外側→上の内側→下の外側→下の内側→奥歯のかむ面→奥歯の裏側、の順でいいでしょう。ただ毎回同じだと、同じ場所を磨けないことも。奇数日は右からスタート、偶数日は左からスタート、など時々順番を入れ替えみて。

 
私もそうでしたが、最初の子育てはあれこれ気になってしまうことが多いもの。困ったらまずは歯医者さんに相談しましょう。虫歯になってから駆け込むだけでなく、予防の段階で気軽に相談できる関係を築けるといいですね。

ママとたくさん会話することも歯磨きと同じくらい大切です。よくしゃべってよく笑う子は、唾液が多く出るので虫歯になりにくいんですよ。

※この記事は、2017年11月発行の「ぎゅって12月号」に掲載した記事を再編集したものです