授乳のスタイルは親子それぞれで、授乳の悩みをかかえるママは少なくないのでは。母乳育児の「基本」を助産師の中村さんに聞きました。悩みやトラブルは早めに解消して、一度しかないスキンシップ期間を笑顔で過ごしましょう。

お話を聞いたのは

中村順子さん( 「よよぎ女性診療所」助産師 )

2017年1月、妊娠期から育児期まで、母乳育児をトータルサポートする「マタニティ&育児カレッジ」を開講。渋谷区子育て支援センター相談員、産後訪問など、地域でも精力的に活動中。3人の子どものママ。

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母乳育児のメリットとは?

「育児で一番大事なのはママが笑顔でいること。そのためにもママの体が大切です。そういった意味では、ママが楽になれる一つの方法として、“母乳育児”はおすすめなんです。」と中村さん。まずは、母乳育児のメリットを教えてもらいました。

母乳は赤ちゃんに必要な栄養素がたっぷり

生まれて最初の母乳と、産後早い時期の母乳には、特にたくさんの免疫成分が含まれているといわれています。母乳にはアレルギー発症や肥満のリスクを抑える効果もあります。

「病気などでやむを得ない事情があるママもいますが、できれば最初の1カ月だけでも、または初乳だけでもあげられるといいですね。」と中村さん。

また、母乳には赤ちゃんの成長に合わせて、自然に栄養内容が変化するという驚きの働きも備わっています。

ママと赤ちゃんの幸せ&精神安定効果あり

授乳すると、「オキシトシン」という通称“幸せホルモン”が分泌。この作用で、多くのママは精神的に満たされた気分になるといわれています。また、赤ちゃんにとっても、ママとぴったり密着することは、精神安定につながります。

授乳でママの産後の回復も早まる

授乳期間中はホルモンの影響で、排卵が抑えられ生理が止まる人が多くいます。子宮のお休み期間となり、ママの産後回復を早めるほか、自然な避妊効果も(排卵の再開は個人差があります)。

また、母乳育児は将来の乳がん、子宮体がん、骨粗しょう症の発症リスクを抑える働きがあります。

「とはいうものの、“母乳でなくてはダメ”ということは決してありません。先ほど話したメリットも、混合派やミルク派も工夫次第でクリアできるので、安心してくださいね。」

授乳の間隔、回数、あげる時間の目安は?

新米ママにとって、最初の授乳は不安や悩みがつきもの。「母乳が足りているかわからない」「上手に飲んでくれない」「疲れて続かない」と、悩む人が多いようです。

月齢や赤ちゃんによって、授乳の回数やタイミングに違いはあるのですが、基本は「生後まもない時期から3、4カ月まで」を一つの区切りと考えましょう。

この時期(生後~3、4カ月)は「ちょこちょこ飲み」。何分くらい飲んだら良いのか、時間や間隔が長いか短いかなど、平均や目安は“ない”と考え、泣いたり欲しがっていたりしたらあげます。結果、1日15回以上あげたとしても異常ではありません。

「夜も昼もなくおっぱいをあげる時期なので、ママは辛いことが多いかも。でも、必ず軌道にのるので、ぜひ乗り切ってください。どうしてもくじけそうなときは、産院や自治体の助産師などを大いに頼りましょう。」と、中村さんは話します。

この時期を乗り切って、赤ちゃんに「満腹中枢」ができあがると回数も自然に安定。ママも楽になり、その親子なりの基本スタイルができあがってきます。

おっぱいが足りているかどうかは、赤ちゃんのおしっこを目安に。1日6回~8回、オムツを手にのせたときに、ズシッと重みを感じるくらい、しっかり濡れていれば大丈夫。逆に、量が少なくておしっこの色が濃く出る場合は、足りていない可能性があります。 

授乳の基本姿勢と抱き方、げっぷ・添い乳の仕方

基本の姿勢

「母乳を続けるコツは、ママが楽に授乳できる姿勢を日々探求することですよ。」と中村さん。産院で教わった姿勢を無理に続けていたり、赤ちゃんが飲んでいるのを中断できずに、痛くても我慢して続けたりしてしまうママも多いそう。

「たとえ赤ちゃんが一生懸命飲んでいても、乳首が痛かったり、体勢がつらいときは、何度でも姿勢を直したり、くわえ直しをさせたりして、自分が楽なポジションを探しましょう。」

授乳専用クッションだけなく、ソファーや家にある座布団なども総動員して微調整を。座って、片足を足台にのせるのが“決めポーズ”の人も。

また、縦抱き・横抱きのいずれの場合も、必ず気をつけなくてはいけないことは、ママのおへその面と、赤ちゃんのおへその面がぴったり平行に合わさっていること。

次の姿勢はNGです。赤ちゃんのおへそが天井を向いてしまっています。

NG例1
NG例2

正しい姿勢はこちら。ママのおへその面に赤ちゃんのおへその面が平行になっています。

OK例1
OK例2

「授乳しているうちに乳首が痛くなってしまうのは、浅飲み、引っ張り飲み、潰し飲み、よじれ飲みになってしまうから。

おっぱいのトラブル防止のためにも、おへそとおへそを平行にする、このポジション作りがとても大事なんです。ぜひ覚えてくださいね。」

げっぷのさせ方

まだ飲むのが上手ではない赤ちゃんは、一緒に空気を飲んでしまうので、げっぷをさせる必要があります。

これは、吐いてしまったときの誤飲を予防するため。母乳の場合は飲んでしまう空気の量も少ないので、必ずしもげっぷをさせる必要はありませんが、背中を軽くトントンしても出ない場合や心配な場合は、横向きに寝かせたり、タオルを枕にするなどして少し頭を高くしてあげてください。

添い乳のさせ方

中村さんが「マスターしたら、楽チン母乳育児の極めつけです。」と話すのが「添い乳」。ママが寝ながら、横で寝ている赤ちゃんに授乳するスタイルです。

「日本の添い寝文化に合っていて、ママと密着できるので赤ちゃんも安心してぐっすり寝ます。ママも寝られるので、夜間の授乳回数が多い人こそ楽に。」

ただし、同じ方向からの引っ張り飲みやよじれ飲みになりやすいので、日中の授乳では方向を変えるなどの工夫をしましょう。

授乳ママの体の変化やよくあるトラブル

授乳中によくあるトラブルには、以下のものがあります。

しこり

おっぱいのしこりは大きくなると、乳腺炎につながってしまうので、なるべく最初の段階で食い止めたいもの。ちょっとしたしこりは、赤ちゃんがしっかり飲むことで解消します。

いろいろな方向、多めの回数で飲ませて。また、しこりが気になっても、無理に指でほぐしたりしごいたりするのは厳禁。手のひらを使って、広い面で押し出しましょう。

しこりが熱を持ってしまったときは、保冷剤ではなく、冷却シートでやさしく冷やします。

ただし、状態によって、冷やすか温めるかは微妙な判断になる場合も。改善の兆しがない場合は、早めに母乳外来か助産師など専門家をたずねてみてください。

噛まれてしまった、乳首(ちくび)が痛い

同じ方向で飲ませるのはやめて、違う方向にして深くくわえさせてください。

傷ができてしまったときは、安静にするのが一番治りが早いもの。くわえさせる方向や深さを変えても痛いときは、搾乳して哺乳瓶であげるなどして、おっぱいのお休みを。また、授乳中の乳首・乳房のスキンケアクリームを利用するのも一つの手。

商品例:ピジョン「リペアニプル」

白斑

乳首周りに、「白斑」といわれる、白っぽいできものが出ることがあります。しこりと同じように、いろいろな方向から、回数を増やして飲ませることで解消することができます。

ただし、乳腺炎の初期の症状にもなりやすいので、悪化するようならば、母乳外来や助産師などに相談をしてくださいね。

赤ちゃんがギャン泣き…。暴れてうまく飲めない

赤ちゃんはお腹が空きすぎると、パニックを起こし、おっぱいを飲めなくなってしまうくらい大泣きをしたり、暴れたりすることがあります。決して珍しいことではないので、あせらないで、赤ちゃんを落ち着かせてあげましょう。

ちょっとお腹が空いてきたときに、口をチュパチュパしたり、おっぱいを探すそぶりをしたり、その赤ちゃんなりのサインがあるので見つけておくと、ギャン泣きする前の良いタイミングで授乳ができます。

そのほか、出る母乳が多すぎて上手く飲めない赤ちゃんも。出過ぎてしまうときは、授乳前に少し絞ってからあげるのもコツです。

「差し乳」「たまり乳」とは?

中村さんによると、最近は「差し乳」「たまり乳」について、質問を受けることも多いようです。「差し乳」とは、赤ちゃんに吸われてから母乳が湧いてくるおっぱいのこと。

張らないので「母乳が足りていないのではないか?」と心配するママがいるそうですが、全く問題ありません。むしろ効率が良く、新鮮な母乳を与えることができる理想的な状態です。

一方、「たまり乳」は母乳がおっぱいにパンパンに溜まってしまうこと。赤ちゃんに飲ませたときに、母乳の出も良くスッキリ感が強いので良い傾向と思ってしまいますが、実は赤ちゃんが飲む量とのバランスが悪いので、注意が必要です。

「母乳と飲まれる量のバランスは、いずれ自然に取れてくるものです。母乳が出ないとき、出過ぎてつまりがちなときと、ともに専用にブレンドされたハーブティーもあるので、それを飲むのもいいですよ。」

商品例:AMOMA ミルクアップブレンド、ミルクスルーブレンド

風邪薬、はちみつ、コーヒー、アルコール少量はOK?NG?

「授乳中にお酒を飲んではダメそうだけれど、はちみつはNGなど、食べてはいけないものはあるの?」など、授乳中に食べていいもの、悪いものについても、いろいろと噂があるようです。改めてチェックしておきましょう。

風邪薬

授乳中の薬の服用は十分な注意が必要。服用できる薬は限られるので、医師に必ず授乳中であることを告げ、処方してもらってください。

「授乳中に服用できる薬については、婦人科や産科の先生が詳しいケースもあるので、気になる場合はそちらに相談をするのもいいですよ。」

はちみつ

1歳未満の乳児に与えるのは厳禁ですが、ママが食べる分には何ら問題はありません。

コーヒー

「ママがコーヒー好きでストレス解消になるなら、1~2杯なら問題ないです。その程度のカフェイン量は、赤ちゃんに重大な健康上の問題が出るとは考えにくいからです。

ただし、いつもより赤ちゃんの寝つきが悪くなることはあります。」最近はカフェインレスコーヒーも多く出ているので、それで代用してもいいですね。

アルコール

アルコールは母乳に移行するので、摂取したあとは授乳を控える必要があります。一方、アルコールはおっぱいを張らせてしまう作用も。

「おっぱいは張っているのに授乳を中断するということは、ママにとっては最悪の状況。トラブルにもなりやすいということです。くれぐれも肝に銘じましょう。」

食事で気をつけるべき事は?

そのほか、乳製品や肉類、油っこい食べ物も乳腺をつまらせがちです。逆に、母乳にいい食べ物とされるのは、具だくさんのスープなど体を温めるもの。

また、便秘に悩むママは食物繊維を。貧血が気になる人は妊娠時と同じように、鉄分・葉酸を意識した食事を心がけるといいでしょう。

「何を食べても大丈夫な人もいれば、同じものでもおっぱいの調子が悪くなる人もいます。あまり窮屈に考えないで、自分で調子を確認しながら、食べることを楽しんでくださいね。」と中村さん。

「つらい」と思ったら、まわりに頼って

中村さんは「母乳のことだけでなく、育児全般に言えることなのですが、育児は本来幸せで楽しいもの。つらいと思ったら、いつでも家族や助産師など周囲に頼っていいんですよ。」と話します。

助産師などは、住んでいる自治体の保健所などで紹介してもらえる場合も。子育てに悩んだときは、身近な“ブレーン”を大いに活用しましょう。

この記事を書いたライター

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向山奈央子さん

フリーライター&エディター。仕事で走り回りすぎて、気付いたら一人娘は中学生に育っていた! ライフワークで「感情ケアプログラム」指導者コース修了。忙しいワーママを見ると、つい(聞かれてもいない)アドバイスをしてしまう。

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