2018.08.06
プールや海と肌を出す機会も多い季節です。日焼けとともに、夏の気になるスキントラブルに「とびひ」があります。とびひは、自然には治らない皮膚疾患です。小児科医の廣津伸夫さんに「とびひ」の症状や治療のポイント、注意すべき点を聞いてみました。
お話を聞いたのは
- 廣津伸夫先生
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廣津医院院長。日本感染症学会インフルエンザ委員。専門:感染症、インフルエンザ。大学病院で血液内科を専攻後、ファミリードクターを目指し、小児科で学びその後開業。インフルエンザの研究にて神奈川県医師会学術功労者表彰(2004年)、インフルエンザの研究にて日本臨床内科医会会長賞(2010年)。著書に『インフルエンザの最新知識Q&A2012』、『よくわかるインフルエンザのすべて』(いずれも医薬ジャーナル社)など多数。
index目次
「とびひ」ってなに?症状は?
火の粉が飛んで周りに火が移っていくように、どんどんと全身に症状が広がることから「とびひ」の名がつきました。
正式名称は「伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)」といい、水ぶくれができるタイプの水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん)と、かさぶたができるタイプの痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)の2種類があります。
このうち子どもに多いのは、圧倒的に水疱性膿痂疹で、強いかゆみを伴います。
水疱性膿痂疹
- 原因菌:黄色ブドウ球菌。皮膚や鼻の中などの常在菌
- 症状:水ぶくれが膿をもつようになり、やぶれて皮膚がただれる。強いかゆみを伴い、かくことで全身に広がる。おもに夏に発症し、乳幼児から小学校低学年がかかることが多い
痂皮性膿痂疹
- 原因菌:溶連菌の一種 黄色ブドウ球菌と混合感染することもある。皮膚や鼻の中などの常在菌
- 症状:膿をもった水ぶくれ(膿疱)から、厚いかさぶたになる。炎症が強く、発熱を伴うことも。年齢、季節問わずに発症
原因は?どうしてとびひになるの?
とびひは皮膚の傷に細菌が繁殖して起こります。子どもに多い水疱性膿痂疹の原因菌は黄色ブドウ球菌で、鼻の中や皮膚にふつうにある常在菌です。
通常は無害ですが、キズや虫刺されのかき壊し、湿しんなどがあると、それをきっかけに皮膚に入り込んで化膿を引き起こします。これが、とびひの「元」となります。
「とびひの特徴は、感染力が非常に強いことが挙げられるでしょう。夏の疾患のイメージがありますが、とびひは夏だけではありません。
皮膚の常在菌が原因ですので、冬でも注意が必要です。しかし虫刺されやあせもなどスキントラブルの多い夏場は、特にとびひになりやすい季節ですので、注意してください」
水ぶくれができていたら、とびひ?
とびひの最初は、小さな水ぶくれができて、その周囲が赤くなっていきます。
水ぶくれで膨らんだ皮膚は非常に薄く、ちょっとひっかくとすぐに破れて膿がキズの周囲へと広がります。そして、さらにその膿を触った手などを介して、全身へと広がっていきます。
とびひの見分け方
体のどこかに皮が破れて赤くただれた病巣があり、周囲に何カ所か赤いぼつぼつができていると、とびひが考えられます。また、鼻の出口がただれて、周りにぼつぼつできている場合もとびひの可能性が高いです。
「とびひには水ぶくれができないケースもあります。また、水ぶくれになった皮膚は非常に薄く、簡単に破れてしまうため、気がついたときにはすでに皮がめくれてしまっているということもよくあります。
すべてのとびひがジクジクしていたり、ただれているわけでもなく、その症状は一様ではないのです。
とびひを見極めるポイントは、皮がむけた皮膚疹と赤いおできのようなものが、周囲にいくつか散らばってできているかどうか。もし見つけたらとびひの可能性が高いので、すぐに小児科か皮膚科を受診してください」
画像で見るとびひの症状
とびひはうつる?病院へは行った方がいい?
とびひは非常に感染力の強い皮膚疾患です。いったん感染すると、自分の体で広がるのはもちろん、患部がお友だちと接触したり、膿のついた手で触ってしまうとお友だちにも感染してしまいます。
とびひは、放っておくとどんどん広がっていきますので、早期治療が一番の薬です。
重症化させないためにも、とびひかな?と思ったら、すぐに小児科か皮膚科を受診しましょう。
大人もとびひになる?
大人に多いのは、かさぶたができるタイプの痂皮性膿痂疹です。アトピー性皮膚炎の場合は、とくにり患しやすい特徴があります。
また、子どもに多い水疱性膿痂疹も、疲れていたり免疫力が落ちていたりすると大人にもうつりますので、注意が必要です。
「いずれのとびひも、子どもから大人へ、大人から子どもにうつるリスクはあります。私のクリニックでも、子どもからお母さんに感染したというケースはあります」
とびひになりやすい箇所は?
とびひの要注意ポイントのナンバーワンに挙げられるのは「鼻の穴」。
とびひの原因菌である黄色ブドウ球菌は、鼻の中に多く常在しています。このため、鼻を触ることが多い子どもはとびひのリスクが高くなります。
黄色い鼻水が乾いてカサカサになると、そこが痒くなってかくことによって傷つけてしまうことが多いからです。
鼻水が垂れていたら、要注意?
鼻水が垂れているだけで、とびひになることはありませんが、子どもの鼻水はこまめにふき取ってあげて、痒くならないような工夫をしてあげたいもの。
それでも鼻の穴の入口付近に、赤いおできのようなものができていたら、とびひになる可能性があります。
「とびひは、特に鼻の穴の入口あたりが元になることが多いですね。透明な鼻水の場合は、さほど気にしなくていいのですが、黄色味を帯びた鼻水が出ているときは要注意です。
また、鼻をかみすぎて肌が荒れてしまうと、とびひのリスクは高まります」
とびひになりやすい箇所
「とくに注意したいのは、鼻の穴の入口付近ですが、後頭部も好発部位です。髪の毛に隠れて発見が遅れやすいのも、要注意です。
ひざの裏やひじの内側は関節が曲がるため、手で触らなくても自然に感染が広がっていきます。
この他にも鼻周囲や顔全体、耳や指、手足など、体全体に感染のリスクはあります。シャワーの後など、1日に1度は子どもの全身状態をチェックしておくといいでしょう」
治療法は?市販薬では治らない?
とびひを重症化させずに早く治すには、患部から感染を広げないことが一番です。自己判断による市販薬では、症状を悪化させてしまうこともあります。
「とびひかな?」と思ったら、早期に小児科か皮膚科を受診してください。
「通常は、抗生剤の飲み薬と抗生剤とステロイドの入った軟膏を処方されます。かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬が処方される場合もあるでしょう。
またとくに軽度な場合は、軟膏のみのこともあるかもしれません。完治の目安は5~7日間程度です。
少し良くなったからと薬を止めると再発することも多いので、処方された飲み薬は最後まで飲み切るようにしてください」
また、とびひになった場合には、自宅では以下のようにケアをすると良いです。
患部をガーゼで覆う
一つひとつの患部に処方された軟膏を塗布した後ガーゼをあてて、四方をテープで留めます。こうすることによって、感染を周囲に広げないようにします。
ガーゼは最低でも1日2回、入浴後と朝起きたときに交換してください。
「市販のばんそうこう(バンドエイド・カットバン等)は、ガーゼ部分から指が入って患部に触ってしまうので、おすすめしません。また、患部全体を1枚のガーゼで覆うのも、そのなかで感染が広がってしまう場合があります。
面倒ではありますが、ていねいに一つひとつの患部を覆うことが、早く治すには必要です」
入浴後のケア
入浴中は、ガーゼをあてたままでも、外してもどちらでも大丈夫です。
入浴後は、膿が水と共にしたたり落ちて、感染を広げてしまう可能性があるので、タオルかガーゼで患部の水気をすばやく拭きとってください。
患部を拭いたタオルでは全身を拭かないように。また、タオルの共用は避けましょう。
とびひで発熱、重篤化することもある?
とびひは、治療をすれば長くても1週間程度で治ります。
しかし、アトピー性皮膚炎の場合は、重症化しやすいのでていねいにケアしてあげることが必要です。発熱することもほとんどありません。
「SSSS(ブドウ球菌性熱傷皮膚症候群)や敗血症の可能性もあるとネットなどで見ることもありますが、受診して治療を受けていれば、ほぼかかることはありませんので安心してください」
保育園・幼稚園には行ってもいい?プールは?
とびひは、学校保健安全法という法律で「学校感染症、第三種(その他の感染症)」として扱われます。
基本的には、医師の治療を受けて、患部をガーゼなどでしっかりと覆っていれば、うつす心配はありません。
ただ、市町村や学校、幼稚園、保育園によって登園・登校許可証書が必要になる場合があります。
「患部を覆って、感染しないような状態であれば、登園・登校は問題ありません。
ただし、鼻の穴や後頭部の髪の中が患部の場合や、全身に症状がある場合には、ガーゼで覆うことが難しいので登園・登校は難しいでしょう」
プールに入ってもいいの?
プールに入ること自体には問題はありません。しかし、幼稚園や保育園のプールは、お友だちと接触する機会も多いので、やめておいた方がいいでしょう。
また入浴も同様で、お湯を介してうつることはないので自宅で湯船に入ることはまったく問題ありません。
「とびひは、水を介して感染することはないので安心してください。自宅の湯船でもうつることはありません。
ただし、きょうだいなどと一緒に入ることは、接触のリスクがあるので、避けた方がいいでしょう」
とびひの予防法は
いくら風邪をひかないように注意していても、風邪をひいてしまうように、とびひを予防することは、非常に難しいこと。
むしろ、かかってしまったときにいかに早く治療をして、正しいケアをするかが求められます。
「インフルエンザと同様に、とびひはうつらないように予防をすることより、うつさない注意の方が大切です。これが、感染症の基本です。
完璧な感染防御は不可能ですから、感染させないように努めることが、結果として感染予防につながります」
虫刺されに注意
とくに夏は蚊に刺されることも多く、かきむしって化膿させてしまうこともあります。
子どもが痒そうにしていたら、かゆみ止めをつけてあげて、ばんそうこうなどでカバーして掻きむしらないような工夫をするといいでしょう。
かぜが原因になることも
黄色く、ベトベトした鼻水が出ていたら、要注意です。黄色い鼻水は細菌感染していて、これが乾くと痒くなり、とびひの元になります。黄色い鼻水が出ていたら、小児科を受診して早めに治療しましょう。
肌は清潔に
肌が荒れているととびひのリスクが高まります。保湿をしっかりとして、肌をきれいにしておくと、たとえり患しても広がりにくくなります。
夏はあせもに要注意
汗をかいたらこまめにふき取り、あせものより(多発性汗腺膿瘍・たはつせいかんせんのうよう)を作らないようにしましょう。
「あせものより」とは、あせもが細菌感染して湿疹化することで、とびひの元になってしまうことがあります。
この記事を書いたライター
ライター一覧- 毛利マスミさん
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フリーライター&エディター。娘が幼児の頃「勉強するなら今しかない」と思い立ち、社会人学生となって臨床心理学を修める。さらに赤ちゃん好きが高じて、保育士免許も取得。中学生となった娘に「孫育てが楽しみ」と言っては、煙たがられています。