入園前面談、出迎えてくれたのは…

三月。保育園の入り口に色とりどりの愛らしいつるし雛が飾られると、5年前の、長女の入園前面談を思い出します。

こどもつながりで社会と接点を持つ初めての公式な機会、夫婦共々緊張しながら呼び鈴を鳴らすと、保育園の先生というよりは、百戦錬磨のキャリアウーマンという印象の、目力の強い美人園長が出迎えてくれました。

保育時間外、きれいに掃除され、静まり返った園内で、持ち物への記名、慣らし保育の段取り、リズムを崩しやすい復職直後のGWの過ごし方、ありとあらゆる方向から吟味しつくされた説明が、まさに立て板に水のごとく進められていきます。

その際、園としてできることとできないことの線引きが、明確に、しかしどこまでも感じよく、保護者の上にも下にも立たない絶妙な位置をキープしながら伝えられていきます。

(このお方は…できる!!!)

It's my turn

大人とのきちんとした会話から離れて久しい頭には処理しきれないほどの情報量に加え、園長の社会人としてスキルの高さにも圧倒され、(5月からの復職、大丈夫か、自分…)と心は千々に乱れ、書きなぐったメモはもはや象形文字レベル、自分であとから見ても絶対読めなさそうです。

ともあれ、説明が一通り済み、「最後に、なにか聞いておきたいこと、ございますか?」と促されました。

「あのー、…津波の対策って、どうされていますか?」

なるべく軽く聞くつもりが、不安でいっぱいなのがバレバレの、じっとり鬱陶しい口調になってしまいました。

気にし始めると夜も眠れない

内定をいただいたその園のお散歩コースには、臨海エリアの公園が含まれていました。わが子の原風景が、こんなに美しい環境の中で刻まれていくことの幸運を喜ぶ一方、震災の記憶も生々しい5年前の春、お散歩にでかけたとき、もし津波が襲ってきたら…。

想像するだけでも胸が締め付けられるほど恐ろしく、いったん気になり始めると、それから心が完全に晴れることはありませんでした。

一方で、私の仕事は、契約書や利用規約といった文書の作成です。オンタイムの自分からすれば、天災は不可抗力事由、免責の筆頭、親として、合理的な範囲の対策を確認するのは当然としても、それを超えたところの不安には、誰もなんの保証もできないことはわかりきったハナシです。

それだけに、これはかなり恥ずかしい展開。明らかに左脳派と思われる理知的な園長から、いったいどんな反応がかえってくるか。恐る恐る顔をあげると、しかし、晴れやかな笑顔が待っていました。

「はいっ!ご御説明しますねっ!」

園単独で月に一度は必ず行う避難訓練、こどもたちとはだしで逃げる練習、自治体、近隣の商店街と連携しての合同訓練、先生方が保育時間外に受ける乳幼児に対するAEDの使い方などの救急救命研修、各お散歩コースからの避難ルートの確認と更新、臨海エリアの公園に散歩に出た時の園との連絡体制、万一、通信遮断などで園と連絡がとれないときの単独での行動シミュレーション-。

先ほどまでの説明に輪をかけ、スラスラと対策をそらんじた後、園長は一点の曇りもない笑顔のまま、まっすぐ私の目をみて最後にこう付け加えたのです。

「命をかけて、お守りします!」

すべてをわきまえた園長があえて放ったそのことばの風圧はすさまじく、衝撃からようやく我にかえると、心を埋め尽くしていたはずの不安の黒雲はすっかりどこかへと吹き飛ばされていました。

母親である自分が、誰より一番、胸を張ってそう言い切れなくてどうするのか。ただクヨクヨしている暇があるなら、一つでも打てる手を考えてみよう。一緒に引き受けてくださる強い味方が、いまの自分にはいるのだからー。

あの年、彩りに満ちた春は、そのとき訪れたと記憶しています。

毎朝、私たちは、お迎えの時間になればまた会えることを疑いもせず、慌ただしくこどもを委ねて仕事に向かい、当然のこととしてまた我が子を伴って家に帰ります。

でも、それは、その間、一日も欠くことなく、気を張り体を張ってこどもたちを守ってくれている先生たちが毎日起こしている奇跡の連続なのかもしれません。はっきりとことばに出す機会は必ずしもなかったとしても、それぞれに園長と同じ思いを胸に秘めてー。

先生は最強の味方!入園前面談、思い切って心を開き、聞きたいことをぶつけてみませんか?

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たかままさん

「保育園児ママの今こそ育児の青春時代!」がモットーの更年期ちらつく歳女(としおんな)。不条理だらけのワンオペ育児、ビジネス文書でみかける用語で考察してみたいと思います。

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