/ 2019.06.03

育児と介護は似ている?

私の母は2003年に交通事故に遭い、その影響で脳幹出血、脳梗塞、くも膜下出血すべてを引き起こし、命は助かったものの寝たきりになりました。現在も下の世話から3度の食事(胃ろうと呼ばれる経管栄養で液体を直接胃に入れます)まで、すべての世話を家族である父と私が行っています。

母が寝たきりになってから今年ではや16年目、2015年に長女を出産し、2017年には次女を出産、これまでの介護とともに育児もスタートしました。

育児と介護を並行するなかで、両者の共通点に気づきました。その内容を共有することで、皆が漠然と持っているであろう介護への不安を少しでも軽くし、育児の大変さも肯定的に捉えられたらと思います。

介護と育児の共通点(1)相手はこちらに依存している

現在、母は自分では何もすることができません。話を聞いたり、目で見たりして情報をインプットすることはできるのですが、アウトプットが全くできないのです。

それこそ手足を動かすことも、「暑い」とか「のど乾いた」という短い言葉を話すこともしません。そのため、父と私は母が汗をかいていないか、寒すぎはしないかなど、常に母の様子に気を配ります。

やっていることは本当に生まれたての赤ちゃんに対するのと同じです(笑)。なので、母親がすやすやと気持ちよさそうに寝ていると、家族はホッと心安らぎます。

サイズは大きいですが、オムツもするし、着替えもします。入浴サービスの方に手伝ってもらってお風呂にも入れます。まさに大きな赤ちゃんのようです。

赤ちゃんも介護を受ける側も、世話をする側の人に依存し、一人では生きていけない存在です。でも、よくよく考えてみると、人間は誰も一人では生きていけないということに気づきます。

つい、こちらが「やってあげている」という上から目線になってしまいがちなのですが、誰もが「やってもらった」時代があり、今だってきっと誰かの助けを借りたり世話になりながら生きているはずです。

忘れがちなことですが、このことに気づいたことで介護や育児に対する私の姿勢も変わった気がします。

小学校時代の担任の先生が、黒板に「人」の字を書いて「人間は支えあって人になるんだよ」とよく言っていたのを思い出します。

介護と育児の共通点(2)ゆっくり、時間がかかる

育児もそうですが、介護も相手に合わせて行うため、とても時間がかかります。母の場合、経管栄養(胃ろう)で胃の管から点滴のように液体の栄養をゆっくり落とすのですが、一度にだいたい300mlくらいを1時間半から2時間かけて入れ、そのあとに薬と100mlの水をシリンジで何回かに分けて注入して一食が終了です。

最初から最後まで少なくとも2時間半から3時間はかかるので、健常者が30分くらいでご飯を食べると考えると、5~6倍の時間がかかります。それを一日に3回。それ以外にもオムツ交換や入浴など、日常生活のすべてにおいて普通の人より時間がかかります。

でもこれだけ時間がかかるので、看るほうの家族も、待つ間の時間をゆっくり過ごさざるを得なくなります。母の部屋の隣で本を読んだり、テレビを観たり、部屋の整理をしたり…。

家にいる時間が長い分、生活が自然と片付いていきます。ゆっくりと母の世話をするなかで、気付くことや、悟ること、喜びもあります。何より、私の語りかけに表情を変える母を見て、このような状態でも母が生きていることに対する感謝の気持ちが湧いてきます。

ゆったりと流れる時間は、そんな心の余裕も生んでくれる気がします。

子どもと過ごしていると、何かひとつこなすのも本当に時間がかかりますよね。食事の世話、着替え、はみがき、などなど決して親のペースでは進まないものです。だけど、むしろこれが普通。

生まれてきてから小学校くらいまではまだまだ大人のように動けないし、歳をとったらまたゆっくりペースに戻ります。特に超高齢社会の今では、自分の体をテキパキ思い通りに動かせるのって意外と人生の半分くらいの時間なのかもしれません。

だからこそ、ゆっくりしたペースに慣れておく、無駄に焦らずに楽しむメンタルの強さを鍛えておくことは、これからの人生のためにも大事なのかもしれません。

介護と育児の共通点(3)この状態(関係性)は期間限定

母の介護を始めて16年目。よく考えてみると、母が私のオムツを替えた回数よりも私が母のオムツを替えた回数のほうが確実に多いはずです(笑)。

子どもが生まれて、オムツを替えてあげるのはせいぜい2~3年。1日に6回、3年間オムツを替えるとして6570回になる計算ですが、老後に介護を受ける期間は必ずしも2年や3年とは限らず、10年単位になることだって十分あり得ます。

毎日オムツ替えや授乳などをしていると「いったいこの日々はいつまで続くんだろう…」と思いますが、長い人生から見ると意外と長くは続かないことに気づきます(笑)。

世話する側とされる側が逆転する可能性も大いにあるのです。私だって今オムツを替えてあげている母にオムツを替えてもらって大きくなったのですから。

この関係性と役割分担はいつまでも続くわけではなく、期間限定だということに気づけば、心を込めてやってあげたいと思えませんか?

親離れした子どもを持つお母さんが「もっとこうしてあげれば良かった」と話すのをよく耳にしますが、過ぎればきっと本当にあっという間なんでしょうね。

介護も同じ。過ぎてみれば16年もあっという間です。そして介護もずっと続くものではなく、いつかは終わりがきます。だからこそ、この一瞬一瞬を大切にルーティンワークでも心を込めて悔いのないようにしたいなと思っています。

人間はやがて慣れるもの

長い間介護をしてきて思うことは、最初は大変なことでも人間はやがて「慣れていく」ということ。これはとても大事なことです。最初は手間取っていたオムツ替えも、さっさっとできるようになったり、痰の吸引も数を重ねた分、看護師さんより上手になったり(笑)。

育児においても「慣れ」は大事ですよね。だから、今ちょっぴり大変でも、きっと良い意味で慣れていくことができるはずです。

ただ介護されている母親と違って、子供は日に日に成長していくので、慣れる間もなくどんどん変化していくのですが…(笑)。

育児や介護を通して実感する家族の大切さ

育児と介護が重なるのは、最近それほど珍しくないことだと思います。育児でも介護でも経験してみて初めてわかることが多いもの。

大変さもあるけれど、そのなかで人の気持ちをより知ることができたり、共感できるようになると思います。人間って結局、自分が経験したことしか実感としてわからないものですよね。

育児をしながら子供から学ぶことってたくさんあります。同じく介護をしていても、学びや気づき、喜びがあります。家族の大切さを実感したり、子供を思う親の気持ちに触れて感動することもあります。それは、他では味わえない大事な経験だと思うのです。

現在、父は母と同居していますが、私たち家族は結婚を機に近くに引っ越し、お互いの家を行き来する生活を送っています。不便なこともありますが、いざという時に助け合える距離にいるのはとてもありがたいです。

これからも、目の前にいる家族に向き合い、ゆっくりですが大事に毎日を過ごしていきたいなと思っています。

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maruriさん

韓国人の夫、ふたりの娘と暮らすマイペースママ。15年前から実母を介護している。育児も家事もマイペースに奮闘中。

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