9月1日は防災の日。地震、噴火、豪雨、台風など、日本列島に生きる以上、自然災害から逃れられません。子どもと離れている時間が長い共働き家庭が備えておくべき防災対策について、大地震のケースを中心に、専門家に聞いてみました。

お話を聞いたのは

国崎信江さん

危機管理アドバイザー・危機管理教育研究所代表。「家族と子どもの命を守る」視点からの防犯・防災対策を自治体や国へ提言するほか、被災地支援、マスメディアへの情報発信を行っている。3人の子どもを持つ母親でもある。>危機管理教育研究所Webサイト

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「1週間は帰れない」と考えて

ママとパパは職場へ、子どもは保育園や学校へ。もし、いつもの生活シーンで大地震が起こったら? 

国崎さんは小学生のお子さんに、「首都直下地震が起きたら、あなたを当日引き取りに来ることはまずないと考えて。お母さんは3日、場合によっては1週間、帰って来られないこともあると思う。」と、日頃よくお話をしているそうです。

1週間は帰れない。

それは決して、非現実的な設定ではありません。3・11の経験もあり、国では帰宅困難者対策として、地震発生後「むやみに(人の)移動を開始しない」「させない」方針を決定。自治体や企業の対策も進んでいます。

それとは別に、今後どんな規模の災害が発生するか、また発生後、橋や建物、交通が復旧し、安全に帰れるようになるまでどのくらいかかるのか、誰にもわからないのが現状です。

「じゃあどうすればいいの?と心配される方も多くいらっしゃいます。でも、やみくもに心配しているだけでは何も進みません。行動するしかないのです。どんな場合でも子どもを守るために、日頃から備えを実践していきましょう。」と国崎さん。

【1】親が子どものために備えるべき事

親が備えておくべきポイントは以下の通りです。

「子どもが保育園、学童、学校にいる場合」を想定した親の備え

「保護者から防災の質問があると、多様な反応があると思います。ただ、今年は災害も多く、子どもが犠牲となったケースもあり、理解を求めやすいタイミング。ぜひこれを機会に話し合ってほしいですね。」と国崎さん。

子どもに対しては、「何日も親が迎えに来られない可能性が高いこと」「その場合は先生や指導員に従うこと」「生きていれば必ず会えること」などを、日頃から年齢やその子の理解度に応じて話し合っておきます。

「子どもが留守番している場合」を想定した親の備え

「自宅を“命を守る場所”にしておくことが、何よりの備え。理想は、避難所よりも安全に過ごせるわが家であることです。」と国崎さん。そのために、まず着手すべきことを教えてもらいました。

 
国崎さんも自宅の耐震につとめ、「東日本大震災のとき、子どもに連絡したら“家にいる”と言われ、“あ、家にいるなら大丈夫”と思うことができたんです」とのこと。離れているときこそ、こうした準備が安心材料になりますね。

また、決して特別なことではありませんが

近所や友達のネットワークを大切にする

ことは、防災の面でもとても重要だそうです。

「地元の消防団、商店街、隣近所、ママ友など、いつものご近所付き合いがいざというとき、“あの家の◯◯ちゃんは大丈夫かな?”と子どもの存在を気にかけ、守ってくれる力になるのです。お祭りなど地域の行事には、親子で積極的に参加しましょう。」

【2】子どもの防災力をアップする

さて、子どもに対しては、どのように防災を教えていけば良いのでしょうか。国崎さんのおすすめは、「わが家の防災マニュアル」作りと「おうちDEキャンプ」です。

「わが家の防災マニュアル」作り

  1. 「もし大きな地震が来たら、◯◯ちゃんは気になることは何?」など、子どもに不安なことを聞く
  2. 子どもの不安に対して、親子でどうしたらいいのかを具体的に話し合う
    ※例えば、子どもが「家がぺっちゃんこになって、その下にいたらどうしよう」といったら、下敷きになった場合の解決方法を話し合います。「人の声がしたら助けを呼ぼう。声が出せないときは物を叩いて音を出そう」など。
  3. 話し合ったこと、ルールとしたことは紙に書いて、まとめておく

マニュアル作りで重要なポイントが2つあります。

「おうちDEキャンプ」をする

  1. 「朝10:00から夜7:00まで」など時間を決めて、冷蔵庫以外のブレーカーを落として、電気、水道、ガスなしで過ごしてみる
  2. 「電気が使えないからお昼ごはんは何にするか」「トイレはどう使えばいいか」など、いろいろと課題が出てくるので、親子で知恵を出し合いながら過ごす

これだけ災害が多発している今、一番必要なことは「応用力」だと国崎さんはいいます。

「私は防災教育の仕事をしていますが、自分の子どもには決して指示せずに、とにかく考えさせます。お母さんだったらこうする、と言うだけで、こうしなさいとは決して言いません。」と国崎さん。

「なぜなら、予想外のことが起こるのが災害。いちいち教えていたら、いざというときに、子どもは“だって、お母さんが教えてくれなかった”などと言いかねません。どんなことが起きても生き延びるためには、親子ともに応用力を育むしかない。

また、こうした話し合いを重ねておくことで、お父さん、お母さんも、“あの子だったらこう考える、こう行動する”と、子どもの行動を予測しやすくなるんです。」

【3】「非常持ち出し袋」を見直す

防災の日。備えの一歩として、各家庭で用意しておきたいと考えるのが「非常持ち出し袋」ですね。ところが、国崎さんは「これさえ備えればもう安心、で思考をストップさせていませんか?それが一番いけないのです」と警告します。

次のシチュエーションを考えてみましょう。自宅で大地震発生、隣家が出火した模様です。一刻の猶予もなく、ただちに避難しなくてはなりません。棚に備えた「非常持ち出し袋」と、携帯や財布が入った「いつものバッグ」。一つしか持てないとしたら、あなたはどちらを持って出ますか?

「あなたがもし“いつものバッグ”と回答したなら、そのバッグに備えをする方が現実的ですよね。非常持ち出し品について避難する状況や家族構成、自分にとって必要な物などを踏まえて、固定観念に縛られることなく、柔軟な思考で考えてみましょう。」

非常持ち出し袋の基本的な考え方

ちなみに、国崎さん自身も外出時のカバンには、常に下記の物を入れているそうです。

止血パッド、痛み止め、マスク、携帯トイレ、抗菌剤、花粉症用メガネ(粉塵除け)、ポンチョ、ゼリー飲料、飴、ウェットシート、わが家の防災マニュアル

もちろん、市販の非常持ち出し袋のセットや、自治体の推奨する防災品リストも、おおいに活用できます。でも、準備をしたら今一度、上記の「基本的な考え方」に沿って検証すること。足りない物は足したり、準備し直したり、試行錯誤を続けてこそ、本当に役立つ備えとなります。

国崎家の場合

さらに、自宅での備えを考えるために、国崎家の場合を紹介してもらいました。

とにかく逃げるときに、1人1着「防災ベスト」

最低限必要な物をまとめた「防災ベスト」

防災ベストに入れておくと良い物(例)

※大人向けにはポケットラジオ、防災用ブランケットがプラスされています
※子ども向けにはお菓子、救急絆創膏、レインコート、着替え(靴下と下着1~2セット)、おもちゃが入ります

「いつものバッグと防災ベスト、これが私の非常持ち出し袋と考えています。ベスト型なので、たとえば子どもがケガをしても背負って逃げられます。」

避難生活を想定してひとまとめにしている物

「ライフラインが寸断されたとき、避難生活になったときにあれば良いと思う物をひとまとめにして、わが家の避難動線を考えて玄関に設置しています。」

また、意外に見落とされがちなこととして、避難生活で「抗菌剤」など感染症対策グッズは重要。忘れずに備えてほしいとのこと。

抗菌剤の例「アミノエリア」
応急手当用品の例「止血パッド」
「水のいらない泡なしシャンプー ウェット手袋」も便利

ちなみに、食品や日用品などは1ヶ月分を目安に備蓄し、日常的に使いつつ買い足しているそうです。

「災害が多発している今、いつどのような形で非常事態が発生するかは、誰にもわかりません。そのときが来たとき、一緒にいても離れていても、子どもを守れるパパとママであってほしい。そのためには、防災について考え続け、できるところから実践してほしいと思います。」