2児のパパ目線、そして新聞記者の目線で子育てや世の中の気になることを読み解く、高橋天地さんの「新聞記者パパのニュースな子育て」。今回のテーマは、最近クローズアップされている“スマホ指荒れ”について。あなたの指は大丈夫?
執筆
- 高橋天地さん
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平成7年、慶應義塾大文学部独文学専攻を卒業後、産経新聞社へ入社。水戸支局、整理部、多摩支局、運動部などを経て、SANKEI EXPRESSで9年間映画取材に従事。現在は文化部で生活班を担当。育児、ファッション、介護、医療、食事、マネーの取材に精力を注ぐ。
「すみません、よく聞き取れませんでした」。スマートフォン(スマホ)にパスワードをかけておいても、ホームボタンの長押しで呼び出せる音声認識秘書機能アプリ「Siri(シリ)」の画面に向け、1歳の次女がまた何やら話しかけているようだ。
たまの休日ぐらい、子どもたちとなるべく長く過ごしたいと切実に思ってはいるものの、急な仕事のメールや電話に対応したり、平日に積み重なった家事の山を夫婦二人がかりでやっつけようと格闘したりしていると、いつの間にか「ちょっと待ってね」の時間がどんどん増えてしまう。
総量でみればおそらく全然「ちょっと」ではないこの時間、我が家の場合、最後の頼みは、テレビのビデオに撮りためたアニメ、DVD、そして、それら全部に加え、ゲームまで搭載された魔法の箱、スマホだ。
小児科や眼科の待合室には
『メディア漬け』はやめましょう
スマホの時間
わたしはなにを失うか
などと謳ったポスターが貼り出され、チクリチクリと罪悪感を刺激してくる。今や子育ての場面でも絶大な存在感を示すスマートフォンだが、あまり知られていない「指荒れ」というリスクも潜んでいることをご存じだろうか。
聞けば、夏にもかかわらず肌荒れで皮膚科を訪れる患者が目立ってきたという。スマートフォンやタブレット端末のタッチパネル操作することで指先の肌が荒れる、いわば“スマホ指荒れ”だ。いったいどのようなメカニズムで起きるのだろう。予防策もあれば試してみたい。
「指荒れ」の原因はスマホの操作!?
肌が赤くなったり、かゆくなったり。あるいは、カサカサになったり、皮がむけたり、吹き出ものができたり…。こうした症状が出ることを「肌荒れ」という。
原因の1つは、3層で構成される皮膚の最も外側の部分である「表皮」(厚さ0.1~0.3ミリ)における細胞の新陳代謝の悪化。
放置すると古くなった表皮(角層、角質層)が肌の表面に残存し、異物の侵入や水分の蒸発を防いで肌に潤いを与えるという表皮本来のバリア機能が衰え、紫外線や乾燥など肌荒れをもたらす外部の刺激を受けやすくなってしまうのだ。
この肌荒れのうち、指先の肌が荒れる、すなわち「指荒れ」の患者が目立ち始めているという。その原因の1つがスマホの操作だ。
重症化すると、皮膚科の通院が必要
6月下旬、東京都内で開かれた関係者向け勉強会(ユースキン製薬主催)で、野村皮膚科医院(横浜市神奈川区)の野村有子院長が警鐘を鳴らした。
「スマホを操作して指先が乾燥。荒れ始めたのにケアをせずに放置して、『指荒れ』を悪化させるケースが目立ち始めています。重症化すると、皮膚科の通院が必要となります。来院されてよくよく話を聞くとスマホの使いすぎが原因と考えられる患者さんが、この1年で増えています」
肌に細かい荒れがあるのは、細かい傷があることを意味する。野村院長ら専門家の話を総合すると、タッチパネルを頻繁に操作する際の摩擦や、長時間の使用によって帯びる端末の熱が、肌荒れした指の小さな傷に働きかける。
健康状態の肌ならば問題ない程度の刺激であっても、少しずつ傷口を広げ、やがてはあかぎれなどの大きな傷となり、症状を悪化させてしまうおそれがある-というのだ。
もちろんスマホ操作だけではなく、パソコンのキーボードをたたくなどの指仕事の増加、手指の消毒の習慣化、洗浄効果の高い洗剤の普及も、近年、「指荒れ」に悩む人が増加している一因となったのではないかと、野村院長はみている。
そもそも「指荒れ」とは
そもそも「指荒れ」とはどのような症状なのか。野村院長の指摘は次のようなものだ。
- 関節など曲がる場所に負担がかかる
- 肌が硬くなって柔軟性がなくなる
- 生活する上で、乾燥や摩擦などの刺激も加わり、皮膚がめくれて、ささくれてくる
さらに重症化すると、
- 赤く腫れて、ジクジクとかゆい
- 割れて出血し痛い
- 皮むけがひどい
などの症状も加わり、皮膚科への通院が必要となる。もっとも重症化したケースでは、
- 猛烈なかゆさ
- 水ぶくれ
- じくじくとし、黄色い汁が出る
- 曲げられないほどの指の痛み
を訴えるようになる。
予防するにはどうしたらいい?
では、「指荒れ」の重症化を予防するのに必要なケアは? 野村院長が薦めるのがユースキン製薬と共同開発した「ハンドセルフィー」と名付けたチェック方法だ。
スマホのカメラで自分の指先を撮影し、拡大表示の機能を活用して指先の肌の状態をチェック、ケアをしようというものだ。
これにより「きちんとハンドクリームを塗ろう」「爪の周りが硬くなって柔軟性がないな」などと指先をいたわる気持ちをおのずと育むことができるメリットもあるという。
また、手洗いの仕方も気をつけたい。ぬるめのお湯(33~35度)で、肌への刺激の少ない洗浄剤を選んで洗い、ハンカチやタオルで水分をしっかりと拭き取るのが理想だという。血行を促進し、肌の荒れを予防するビタミンE入りのハンドクリームを使用することも一考だという。
指は日常的に絶えず使うものだから、絶対安静は難しい。だからこそ野村院長は「症状がひどくなる前にケアが必要だ」と指摘する。
勉強会では、25年にわたりパーツモデル界の第一人者として活躍してきた金子エミさん(46)も講演し、「水に触れたらきちんと拭き取り、ハンドクリームを塗って保湿し、就寝前にはハンドマッサージも行ってきた」と、きれいな手を維持するためのコツや心構えを披露した。
手は外に突き出た脳である
予防ケアの一つがスマホを使ったハンドセルフィー撮影とはなんだか皮肉な気もするが、つまるところ、ツール自体に善悪があるのではなく、本人の使い方次第ということではあるのだろう。
子育て世代にはメジャーなハンドジェルも、使いすぎればこの「手荒れ」「指荒れ」をさらに悪化させる要因となる可能性があるという意見もある。
ところで、幼児教育に関する情報では、ときどき手や口が極端に大きな「ホムンクルス(ラテン語で小人の意味)」の絵を見かけることがある。
カナダの脳外科医、ワイルダー・ペンフィールドがまとめた「ペンフィールドのマップ」と呼ばれる図だ。身体の各部位を司る大脳皮質の面積に比例した大きさで、人間の姿を描くとこのような形になるのだという。
また、「手は外に突き出た脳である」という言葉もよく耳にする。人類が文化を築いてきた「手」という部位が、いかに特別なものかが分かる。
スマホの使い方、親が子に手本を
「日本語からの翻訳には対応していません。ウェブを検索しますか?」。今度は4歳の長女の問いかけにSiriが回答している。
良し悪しは使い方次第とはいえ、長時間画面を見ていれば目もチカチカしてくるし、ゲームに熱中しすぎればスマホ指荒れや腱鞘炎にもなりかねない。親がスマホばかりのぞいていればただでさえ少ない子どもたちと関わる時間はほとんどなくなってしまう。
接触する総時間に上限を設けたり、見たものについて話し合ったり、絵に描いたりアウトプットの材料にしたり、「こちらがコントロールする側、使いこなす側」ということを子どもたちに伝えるためには、まずは親自身がうまい距離の取り方とけじめのつけ方を見せ、お手本を示さねばならないのかもしれない。
それこそ、親がスマホで指荒れしてる間に、子どもの質問にはSiriの方がずっとうまく答えられるようになっていた、などということにならないうちに・・・。