棋士の藤井聡太さんや、英国ウィリアム王子を育てた大注目のモンテッソーリ教育。モンテッソーリ教育の国内第一人者であり、レッジョエミリア教育の研究者である島村華子さんに、今日からでもできそうな、子どもとの関わり方のコツを聞きました。

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オルタナティブ教育の専門家として、親しみやすく、柔軟性のある教育法を提唱する島村華子さん。手のかかる未就学期だからこそ知っておきたい「ほめ方」や「しかり方」「聞き方」についてレクチャーしてもらうとともに、パパ・ママのウェルビーイングについても考えます。

モンテッソーリ教育とレッジョ・エミリア教育、何が同じ?どう違う?

ーまず、モンテッソーリ教育とレッジョ・エミリア教育の共通点や、違いを教えてください。
モンテッソーリ教育もレッジョ・エミリア教育も、子どもを「ただの子ども」ではなく、大人と同じ「権利も意見もある社会の一員」と捉えています。モンテッソーリはテストがないことで知られていますが、子どもの興味を「観察」によって見極める教育法という点で共通しています。
また、子どもの心理的ニーズ、学力的ニーズをかなえるための「環境」を整えることを大切にしてる点も同じです。
異なる点は、モンテッソーリには既存のカリキュラムがあり、全世界どこにいても同じ内容が受けられますが、レッジョ・エミリアにはそれがありません。基本的に都市によって、また園によっても違う「学び」が起こっていると考えると分かりやすいと思います。

ー藤井聡太さんや、スティーブ・ジョブズさんなどの有名人が受けたことでも有名です。
モンテッソーリ教育を受けた人が、創造性や、他人の気持ち理解する社会性、学力が高いなどといった研究結果はあります。レッジョエミリアも選挙の投票率やボランティア等社会と関わる力が強いという報告もあります。

気をつけたいダメなほめ方は「おざなりほめ」

ーその教育法のエッセンスを生かした「良いほめ方」「しかり方」「アクティブリスニング」(聞き方)を提唱されています。具体的に教えていただきたいのですが、まずダメな「ほめ方」ってあるんでしょうか?
避けたいのは、「おざなりほめ」。例えば、目をつぶっていても言える「上手」「すごい」。ほめすぎるとほめ依存になってしまい、外的な評価がないと自分の価値を見いだせなくなると言われています。また「人中心のほめ方」も避けたいところです。その子の資質や、能力、性格、見た目にフォーカスした「頭が良いね」「やさしいね」といったほめ方は、型にはめられることで、その評価が下がることを恐れてチャレンジを諦める子はけっこう多いんです。「もし頭が良くない結果が出たら嫌われるかも」と思っちゃうんですね。

ーなるほど、では逆に良いほめ方というのは?
やってほしいのは「プロセスほめ」。その子ががんばった過程や努力についてコメントします。「失敗しても諦めずにがんばったね」「毎日こつこつ練習していたの見ていたよ」など、本人ががんばっていたところ、工夫していた部分について具体的にコメントするのです。
すると、成果主義ではなく「自分ががんばったことに価値がある」と考えられるようになるので、チャレンジ精神も高まるし、やり方を変えたり、誰かとすることでもっとできるようになるかも!という成長志向が生まれます。

よいしかり方とは、「しかるのではなく対話」

ーしかり方はどうですか?
「だめ!」と、大きな声で言われると、子どもの脳はフリーズ状態になります。道路に飛び出したりする緊急事態は別ですよ。そうでなければ、「否定」から入らず、その子の行動をそのまま言葉にしてみてください。
おしょうゆを取ろうとして牛乳のカップをこぼしたら、「何やってんの!」ではなく「おしょうゆを取りたかったんだね」と言う。そして「今この状況になったけど、どうしたらいいと思う?」と、答えを聞く。答えられないくらい小さな子であれば「一緒にふこうか」と。多くの場面において叱ることは必要ではありません。「あなたはこうしたかったんだね」「どうしてそうしたいと思ったの」と対話することが大事です。
ーイライラしていると、そんなに冷静になれない気がします。トレーニングが必要ですか?
はい、練習ですね。24時間目指すのではなく「できるときにやる」というスタンスでいいと思いますよ。ネガティブなところばかりに注目してしまったり、「この子はこうだ」と思うと、そういう事象しか目につかなくなるのって、実は誰でもそうなんです。
ネガティブからポジティブに強制的に自分のマインドをもっていくというのも一つの手です。例えば「3 good things(スリーグッドシングス)」と言って、1日の終わりに、今日あった3つのいいことを家族で一つずつ言い合う。幸せな気持ちになったこと、うれしかったこと。毎日続けることで、相手のいいところや、世の中にあるすてきなことに気づけるようになります。

アクティブリスニング(よい聞き方)について


ー著書「アクティブリスニングでかなえる最高の子育て」にも書かれていますが、子どもの話の聞き方というのも重要なんですよね。
アクティブリスニングは「積極的傾聴」といって、聞き手の価値観や偏見によって批判や否定をしたり、独自の解釈をすることなく、話し手自身の経験を理解しようとすることが求められます。たとえば、「今日はAちゃんが休みだった」と子どもが言い、「Aちゃんがいないとがっかりだね」と返すのは、典型的な「決めつけリスナー」です。子どもの気持ちを想像することは大事ですが、子どもはあったことを単に事実として伝えていることも多く、そこにどんな感情が付随しているかは、子どもにしか分かりません。「Aちゃんお休みだったんだ、どう感じたの?」と質問してみてください。
ーアクティブリスニングができると、子ども自身の自己肯定感、自己効力感が上がりますか。
「自己肯定感」は、自分全体のことを受け入れているのに対して、「自己効力感」というのは、特定のことに対する自分の能力への根拠を指します。例えば「自己肯定感」が低くても、バスケは好きでバスケットボールのシュートに関する「自己効力感」は強いということはあり得ます。
アクティブリスニングをすることで、自己肯定感も自己効力感も高められます。子どもの失敗談や成功談を聞くとき、子どもにとっては「どんな話でもまずは聞いてくれる」という心理的安全な環境があるということが大事です。「試合がこうだったので、こう思った」という子どもの話を一生懸命興味を持って聞くことで、子どもは「自分の考えは間違っていなかったんだな」と思い、そこから生まれる自信が、自己肯定感や自己効力感につながるというわけです。

親自身がウェルビーイングであるために

ー親自身がウェルビーイングな状態でいることも大事ですね。
そうですね、自分の心が空っぽの状態では、人のケアはできないと思いますから、息抜きは大切にしてほしいですね。一人の時間が必要でカフェに行くのが大事な人もいれば、誰かに話をすることが大事な人もいます。まずは自分で見極めて、それができるように計画を練ってみてください。パートナーと話し合って、工夫することも大事です。

ーパートナーや子どもに罪悪感を持ったり、なかなかトライできない人もいます。
例えば、友人にお願いして誘われた形にするなど、多少は強引に自分をその場に引き出すのもありだし、子どもも趣味に巻き込んでしまうのもありだと思いますよ。

お話を聞いたのは

島村華子さん

上智大学卒業後、カナダのバンクーバーに渡りモンテッソーリ国際協会(AMI)の教員資格免許を取得。カナダのモンテッソーリ幼稚園での教員生活を経て、オックスフォード大学にて、児童発達学の修士、博士課程終了。現在はカナダの大学にて、幼児教育の教員養成に関わる。著書に「自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方」(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)、「アクティブリスニングでかなえる最高の子育て」(主婦の友社刊)

写真/和氣淳、文/寺山美穂