なんとなく眠れない夜、一息つきたいとき。肩の力を抜いて楽しめる、だけど少しだけ“人生”について考えさせる、そんな4コマ漫画はいかがですか?

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漫画「すーちゃん」はこんな話

「すーちゃん」シリーズ(益田ミリ・幻冬舎)には、さまざまなライフスタイルを持つ30代の女性が登場します。

まず、主人公の“すーちゃん”はカフェで働く、ひとり暮らしの30代。彼氏がいないことや老後への不安、漠然とした「変わりたい」という気持ちを抱えながら、毎日を送っています。

そんなすーちゃんの女友達たちも、それなりにいろいろ抱える年頃。大きなドラマや起承転結があるわけではないのですが、彼女たちのリアルな心のつぶやきに「わかるわかる」と相づちを打つように、ページをめくってしまう作品です。

とにかくよく考える、主人公のすーちゃん

「すーちゃん」益田ミリ(幻冬舎文庫/494円)

1冊めの「すーちゃん」はカフェで働き、漠然とした将来への不安を抱えながら、「変わりたい」と願うすーちゃんの日常を描いたものです。

すーちゃんは、心根のやさしい真面目な30代女性なのですが、「疲れた~」とか言いながら、とにかくうだうだ考えまくる(笑)。そのうだうだ考えまくる感じが、同じくうだうだ考える30代女性の私としては、とても共感できるのです。

「あー疲れた」 こういう1日がどんどん重なって あたしの人生は終わってゆくんだ 人生 人が生きる いい生き方ってどんな生き方なんだろう

あたし、今幸せじゃないの? 「少なくとも不幸じゃない」 幸せを目指して生きることが正しいこと? 幸せって 目指すもの? 目指すということはゴールがあるということ 幸せにゴールってあんのか?

恋をしたり、その恋にやぶれたり、友達と会ったり、仕事で嫌な思いをしたり、おいしいものを食べたり、漠然とした不安に襲われたりしながら、すーちゃんは自分と向き合っていて、脱力系のイラストで描かれた世界ではありますが、それは私たちの生きる日常と同じにおいがする。

そのリアリティのあるにおいが、私はとても好きです。

すーちゃん、老いについて考える

すーちゃんは、学生時代にバイトしていたレストランで社員だった「さわ子」さんに再会します。

さわ子さんは、アラフォーの独身女性。実家暮らし、会社勤めをしながら、母と2人で認知症のおばあちゃんの介護をしていて、すーちゃんと同じく未来に漠然とした焦りを、不安を抱いています。

このさわ子さんのおばあさんのエビソードとリンクするように、老いについて考えるすーちゃんの姿が描かれます。

老人ホームの下見について考えたり、遺言を書こうと本屋で本を探しているときに、さわ子さんに会って、びくっとするすーちゃんがちょっぴり笑えますが、誰にとっても老いは切実な話。

将来何になりたいか子どもの頃はよく聞かれたけど 大人になってしまえば もう、聞かれない 「大人の将来には何が待ち受けているんだろう?」

確かに、何が待ち受けているんだろう…。いまだに「大きくなったら、何になろうかな」と思っている私です(笑)。さわ子さんの言葉も印象的。生理痛がつらいことを同僚に話すと、「子どもを産んだら治るから、早く産んじゃいなよ」と言われて

女からも、日々こまごまとしたセクハラを受けているわけで、 でも、慣れたりしない 慣れることは許すこと こうゆう鈍感な言葉に 傷つくことができる私でいたい

自分も何気ない発言で、誰かを傷つけてはいないか考えさせられるとともに、傷つくことを一辺倒に「いけないこと」「弱さ」と捉えないさわ子さんのしなやかな心に、ハッとさせられるのです。

結婚して仕事を辞め、妊婦になったすーちゃんの友達「まいちゃん」の「選ばなかったほうの人生」についての考えも、母になった身としては染みるところです。

すーちゃん、仕事をやめる

店長になったすーちゃんは、職場の人間関係で大きな悩みを抱えます。すーちゃんが働くカフェの社長の親せきの「向井さん」。いつも誰かの悪口を言っており、すーちゃんのことも上から目線で、さりげなく嫌なことを言って傷つける人です。

「いるいる、こういうやつ~」というリアリティで、だんだん胃が痛くなってくる1冊(笑)。

並行して、すーちゃんの従妹の「あかねちゃん」の日常も描かれます。職場の先輩女子社員に悩まされ、彼氏との結婚に焦る30歳のあかねちゃん。こちらもめちゃくちゃリアル。

何でも人に頼って、しかも感謝しない図々しさを持つあかねちゃんの先輩とか、店員さんにそこはかとなく態度の大きいあかねちゃんの彼氏とか、「いるいる~」の連続です(笑)。

一方、職場の異動願いも聞き入れられず、日々向井さんの態度も嫌なものになっていき、ストレスが限界に達したすーちゃんは、

逃げ場がないなら その部屋にいてはダメなんだ

と転職を決意。そんなすーちゃんへのお母さんの言葉が泣けるのです。ぜひ読んでほしい!

すーちゃん、恋をする

4作の中で、一番好きなのはこれ。ふと開けた感じがする1冊です。

すーちゃんが新しい職場に選んだのは、保育園の調理室。そこの調理師さんたちは、さまざまな子どもの個性を受け入れ、やわらかに食の楽しさを伝えていて、「こんな保育園が本当にあったら、通わせたい!」と親目線で感動してしまいます。

子どもを連れたまいちゃんと、すーちゃんの久々の再会も、リアリティがあって泣ける!

久しぶりにあった女友達 子どもが小さいと大抵ゆっくり話せなくて けど、 そんなことはなんともないよ! って顔をしていることが 今の私にできる友への優しさなのではないかと思い けど、 やっぱりちょっと、 やっぱりちょっと つまらないのだった

すーちゃんの独白が本当にリアル。そうだよね…ごめんよ、友達…。

またいつか、 またいつか いろんな話ができる日がくるのかな

すーちゃんの気持ちも、まいちゃんの気持ちも痛いほどわかります。新しく恋をした相手もどうやら彼女がいるようで、40歳を前に「お母さんになる人生」と「お母さんにならない人生」について悩む、すーちゃん。しかし、保育園の子どもたちが「いつだって自分全開」なことに思いをはせ、

「お母さんになる人生」 って言葉に引っぱられているだけなのかな 最後の最後まで 「自分」として生きていくのに

という考えに至ります。母になっても「お母さん」以外の自分もある、と感じるまいちゃん。母になってもならなくても、「自分」として生きていくだけなんだ、と気付くすーちゃん。

ユーモアもあり、本当に肩の力を抜いて楽しめる作品なのですが、「人生のすべてが詰まっている!」と感じられる、すごい作品でもあります。

なんとなく眠れない夜、一息つきたいときに読んでみてください!

この記事を書いたライター

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あら井さん

2歳差姉妹を命からがら育てています。逃避手段は読書とジャニーズ。今春から京都に引っ越すので、京都子連れ情報も発信したいと思っています。

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