長い間検討されてきた幼保無償化が満を持して始まり、1カ月経ちましたね!まだ大きな影響は目には見えないのですが、幼保無償化は保育の現場では大きな節目とも言えます。幼保無償化によって、保育園はどう変わっていくの?3人の識者にお話を伺いました。

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10月から幼保無償化が始まったけれど…

非婚化、晩婚化、晩産化、そして出生率の低下…。少子化が叫ばれて久しい日本ですが、平成の30年間、政府はただ手をこまねいていたわけではありません。しかし、いくつもの対策をしましたが、少子化に歯止めをかけることはできなかったのは、多くの人の知るところです。

そして注目されたのが、「子どもを産まない理由」について。2015年に行われた第15回出生動向基本調査よると、50歳未満の女性のどの年代でも「子育て・教育にお金がかかる」ことが理由の第1位に挙げられています。

「それなら、その負担を軽くしよう!」と始まった幼保無償化ですが、とても大きな変化ですよね。保育園での現場への影響はあるのでしょうか?

今回、2019年10月9日に行われた「少子化・人口減時代に考える変化する保育のあり方とこれから選ばれる・選ぶべき保育園とは?『スマート保育環境整備』に向けた有識者による講演会」にて、白梅学園大学大学院特任教授 無藤隆先生、玉川大学教授・日本保育学会副会長 大豆生田啓友先生、ユニファ株式会社代表取締役CEO 土岐泰之さんの3人のお話を伺ってきました。

左から無藤隆先生、土岐泰之さん、大豆生田啓友先生

幼保無償化で、保育の質が低下する!?

今まで通っていた園の保育料が「幼保無償化」の恩恵を受けられるのは、ありがたいな〜!と単純に嬉しいのですが懸念はあるのでしょうか。

(無藤先生)「幼稚園よりも保育園へ通う方が、幼保無償化による補助が手厚いですよね。そのため保育園への入園を希望する親が増え、待機児童が増えると予測されています。一時的に待機児童が増えるわけですが、これにより、質の低い保育サービスが保育市場へ参入してくる懸念があります」

(大豆生田先生)「さらに、保育園での一日11時間にわたる保育が無償化となるので、長時間預けられる子どもも増えるでしょう。こういった長時間保育が増えれば、当然、先生方の負担も増しますよね。こうなると、保育の質の低下を避けるのは難しい状況です。保育士の待遇改善が早急に必要です」

保育の質を上げるには、何をどうすれば?

子どもたちが今までと同等の教育を受けられなくなるおそれがある。保育の質を今までより下げず、上げていく策はあるのでしょうか。

(無藤先生)「大事故が起こるときには、マニュアルを守っていなかったことが原因です。まずは、マニュアルを守ること。それから、きちんと記録を残し、第三者によるチェックを徹底することです。この記録を通じて、普段の保育を見直し、園としてより良い保育を目指していくことですね。他にも企業の育児休暇の普及や期間の延長といった手立てもありますね」

(大豆生田先生)「それに、保育の質を上げるには、『子どもと関わる過程の質』という視点が欠かせません。子どもの関わりを『記録する』という点で、『写真』はとても有効ですね。例えば、保育士が『これだ!』と思った子どもの成長のタイミングを撮影したら、写真を見ただけで様子もわかり、その写真をもとに保護者との会話も生まれますよね。写真を含め子どもの記録をデータ化していけば、業務の負荷を減らせます。

また、先生方は本当にいろいろな種類の書類を書いていますよね。役所への報告書、園で保存するための書類、それから保護者への連絡帳、指導計画…。これを全部、手書きでやっていたのをデータ化してしまえば、かなり省エネでき、負荷が減らせます。今までとは違い、ITを活用したコミュニケーション(以下ICT)を活用するということは、写真を撮る必要が生じたり、慣れた手書きではなくパソコンを使用するというハードルはありますが、そこをクリアできれば、ゆとりが生まれ、保育の質の向上にもつながるでしょう」

幼保無償化は、保育の質が低下するおそれもありますが、これを課題としてうまく乗り越えれば、今までよりももっと良い保育ができるようになるかもしれない、というチャンスでもあるんですね。

IT技術が保育園を救う!?ユニファ株式会社の取り組み

(土岐さん)「保育園の中でICTをうまく使うことで、先生たちの負荷が減り、より良い保育ができるようになることを願い、ユニファ株式会社では、保育園向けのフォトサービス『ルクミーフォト』を提供しています。

保育士のエプロンに、定期的に撮影する自動デバイスカメラを取り付けておき、『保育士の目線で』子どもたちの様子を撮影することができます。このデータを専用アプリ『ルクミーフォト』へ。日中子どもと共に過ごす先生だからこそ見られる子どもたちの日常を、保護者も垣間見ることができるのは嬉しいですよね。さらに、子どもの成長の瞬間を逃さないで留められるので、子どもの学びの見える化ができます。こうして撮られた1枚の写真から、先生と保護者のコミュニケーションが生まれるきっかけになることでしょう。

今後は、独自の顔認識技術を進化させて、子どもの視線の先を推定できるように研究しています。そうすることで、目線の先に何があるのか分かれば、例えば、普段仲良くしているお友だちが誰なのか、夢中になってやっている遊びが何なのか理解できるのです。

また、『ルクミー午睡チェック』※1などのヘルスケアサービスもぜひ活用していただきたい一つです。保育園では、乳幼児突然死症候群(SIDS)予防のために、お昼寝のときには0歳児だと5分ごとに睡眠中の子どもの呼吸や体の向きをチェックしています。『ルクミー午睡チェック』※1は、子どもが『うつ伏せ寝』になったときや『体動停止』を検知して、すぐにアラートを鳴らして先生たちに伝えます。また、体の向きをチェック表に自動で記録するので、先生たちの手書き業務をもっと簡略化できるのです。
※1.医療機器届出番号: 13B1X10140017300

その他にも、登園時の検温・記録を1秒でできる『ルクミー体温計』※2や保護者がスマホで閲覧できるデジタル版連絡帳『キッズリー』などもぜひ知って欲しいです」
※2.医療機器届出番号: 230AGBZX00069000

登降園も「スマホでピッ!」これなら保護者もとても楽!

保育園にICTという考えはこれまであまり馴染みがなかったのでは。園の先生たちは、かなりたくさんのことを「手」を使ってやって下さっていたのだと感じます。ICTをうまく活用できたらかなり便利になりそうです。

先生たちがもっと”保育”本来の楽しさを取り戻せるように

ICTを活用できたら、「先生方の業務の煩雑さが大幅に軽減されるのでは?」という希望が持てます。

(無藤先生)「保育園で、こうしたICTの技術をもっと活用したらいいと思います。残念ながら、保育士不足は根本的に解決することはないでしょう。日本全体が人手不足ですし、待遇が改善されなければ保育士を目指す人も減ってしまいます。今いる先生たちに研修をしたり、さらにさまざまなバックグラウンドの人材を採用しながら、同時に保育園にもっとICTの技術を取り入れたらいいのです。というと、なんだか先生たちが人の手で今までやっていたことを、AIが取って代わるかのように聞こえるかもしれません。が、そうではなく、人がやるべきところは人の手でやりながらICTをセットとして活用するということです。AIにとって代わらないものを大事にすることは、これからの1歩先の未来のために必要なことですね。

ICTを保育に活かせれば、『子どもが好きだから』と保育士になった先生たちが、煩雑な業務から解放されて、もっと余裕ができるはずです。そのゆとりを、子どもと接するための時間に変えて行けば、子どもの成長をよりよく見られる状況が生み出せるはずです。

その中で先生たちが園で一生懸命にやっていることは『(子どもたちにとって)こういう意味があるのだ』と先生自身が気付くことができれば、きっと保育の本来の楽しさを取り戻せるでしょう」

そんな本来の保育の楽しさが現れている保育園のイメージ、として「スマート保育園」のイメージ動画が紹介されていました。

保護者である私たちができること

(無藤先生)「先生たちとICTだけで保育の質の向上を目指すには、まだ足りないんです。子どもを預けている保護者の協力やICT、保育園にある教材などを組み合わせてハイブリッド化することで、保育の組織をよりレベルアップさせて行くことができると思います」

(大豆生田先生)「保育業界だけで頑張るのではなく、乳幼児期って子どもが大いに成長する楽しい時期ですから、それを盛り上げていくんだという、企業、家庭を巻き込んだ施策が今後もっと求められていくのではないでしょうか。保護者は子どもを園に任せてしまうのではなく、ぜひ保育の質の向上や、そこで活用されるICT技などにアンテナを伸ばして欲しいです」

保育園で子供たちや先生たちの笑顔がもっと増えることは、保護者にとっても嬉しいこと。新しい技術などぜひ積極的に興味を広げていきたいですね!

この記事を書いたライター

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岬さちこさん

岬さちこと申します。時間がないときや体調が良くないときでも、ささっと作れる時短料理を紹介します。忙しいお母さんの参考になれば幸いです。

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