在宅ワーク等で子どもと過ごす時間が増えたことで、イライラや怒ることが増えていませんか? 子どもも頑張っているとはわかっているけれど…産業医であり働くママのメンタルヘルスについて研究している佐々木那津先生に、対処法を聞いてみました。

お話を聞いたのは

佐々木 那津先生

産業医。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野 医学博士課程(社会医学専攻)所属。研究テーマは小さな子どもを育てながら働く女性のメンタルヘルス。2014年 東京大学医学部卒。子どもは3歳と5歳の男の子。

6秒を乗り越える緊急避難

イライラしている、ということに気づけたあなたは素晴らしい! その気づきが対処への第一歩です。大きな声を出したり、手が出そうな衝動を感じたら、まずは一瞬我慢します。怒りの最大瞬間風速は6秒です。その6秒間が乗り越えられたら、もう大丈夫。ゆっくりと、適切な対処について考えられます。

深呼吸
イライラを感じたその瞬間、まずは大きく息を吸い、口からゆっくりと息をはきます。3回ほど繰り返しましょう。深呼吸は、心拍数を抑え筋肉の緊張をゆるめる効果があります。暴力的な衝動が静まり、冷静な自分を取り戻すのに最も有効な方法です。

その場を離れる
子どもが癇癪を起こして泣きわめいている時、場面を切り替えるとコロッと機嫌がよくなることがありますね。親も同じです。少しその場を離れ、窓を開けて換気をしたり、トイレに行ったりして、一時的にその場を離れましょう。

少し冷静になったらやること

「やらなきゃ」を手放す
なぜ自分はイライラしたんだろう?と考えると、その根底には自分が思う「やらなきゃ」「すべき」の理想が叶わないという状況が生まれているからなのです。今は通常と違う生活なので、「家事をやらなきゃ」「仕事をやらなきゃ」はいつも通りいかないかもしれません。イライラの原因となる、自分の理想を少しゆるめてみる、手放せるものは手放す、そうすることでイライラする頻度が減り、一回あたりのイライラ度合いも弱くなります。

セルフハグ
「私ってダメな親」と自分を責めたり、「なんで私ばっかり…」と逆に被害的な気持ちが強くなっているママにおすすめの方法がセルフハグです。自分の肩を自分でなで、優しい思いやりの気持ちを自分自身に向けながら「もう十分頑張ってるよ、おつかれさま。」と自分に声をかけます。恥ずかしければトイレで行うのも良いでしょう。自分を自分でいたわることで、穏やかであたたかい気持ちが、少しだけ顔をだしてくることに気づくかもしれません。

次のイライラを防止するために

―安全でわかりやすい家庭内の環境をつくる
イライラする場面は繰り返されることがあります。乳幼児の場合は、危ないものを家庭から取り除くだけで、「触っちゃダメ!」とイライラする機会が減ります。おもちゃを散らかしてお片付けができないことでイライラするなら、子どもが何をどこにしまったら良いかわかりやすくする(おもちゃごとにしまう箱を決めるなど)だけで、自分でお片付けがしやすくなるかもしれません。イライラを防止するための環境の対策はすぐに行えるので、早めに取り組むと良いでしょう。

―だいたいのスケジュールを決めておく
不確実な要素が生活の中にあると、不安な気持ちが高まりイライラしやすくなります。ある程度1日のスケジュールをたて、見通しを作ることで気持ちが落ち着くことがあります。配偶者や家族など、子育てを一緒にできる人を巻き込んでスケジュールをつくり、できれば「1人になれる時間」を少しでも確保すると心のエネルギーが回復しやすくなります。

―ママも好きなことをする
ママが楽しめること、好きな活動をする時間も作りましょう。子どもといてもできることがあります。美味しいコーヒーを淹れる、好きなBGMを流す、今までできなかったこと(模様替えや大掃除)に取り組む、ケーキ作りにチャレンジ、子どもに隠れて冷蔵庫の影でチョコレートを1粒…?など、ママの心のエネルギーを蓄えることで、次のイライラに備えます。

―子育てスキルを試してみる
「子どもが言うことをきかない」「指示が耳に入らない」ことでイライラするのであれば、違った方法で声掛けをしたり、工夫をすることを試してみましょう。2回同じことを言っても子どもが言うことを聞かなかったら、それ以上言っても無効です。以下に、すぐに使える子育てスキルを載せたので、試してみてください。

子どもへの伝え方を変えてみる

―選択肢を与える
「Aしなさい」ではなく、「Aにする?Bにする?」と自分で決めさせると、次の行動にうつりやすくなります。

―肯定文で伝える
「○○しちゃだめ」「○○しないで」という指示では、それではどうするのが良いのか?ということを子どもが判断できません。「横断歩道では歩いてね。」「静かな声で話しましょう。」など、その場で望ましい態度や行動を、肯定文で伝えると子どもがきいてくれやすくなります。

―できていることをほめる
親はできていないことに目が行きがちで、子どもが「やったこと」「できたこと」は当然のように感じてしまうことがあります。「兄弟仲良く遊べているね。」「お着替え自分でできて、えらいよ。」「丁寧に色を塗って、がんばっているね。」など、できていることをほめることで、「あ、これって良いことなんだ。」という学びにつながり、その良い行動が増えていきます。

―おだやかに、近づいて、落ち着いた声で伝える
子どもが「いやだ!」と興奮しているときは、親も大きな声を出しがちです。けれど、あえて小さな声、おだやかな声で、同じ目線まで体を落としてから指示を出すと、子どもに伝わりやすくなります。

―タイミングを待つ
テレビ番組の途中で「今すぐ寝なさい」と言われても、大人でも難しいものです。子どもが何かを楽しんでいる最中は、指示が耳に入りません。キリがいいタイミングまで待って、はっきりと指示を出します。

―約束をする
子どもも、自分で言った約束は守りたいものです。「ゲームは3時までです。」という約束に、目を見てはっきり「うん、わかった。」と答えてくれたら、うまくいく可能性は高いでしょう。「あと何枚折り紙やったら、お風呂に入る?」「あと、2枚!」など、自分で約束を決めさせることで、次の行動にうつりやすくなることもあります。

【参考資料】

<研究参加者募集中>
2020年6月30日まで、未就学児を育てながら週30時間以上働いているワーキングマザーを募集しています。

ワーママのWebメンタルヘルストレーニングプログラム~Happiness Mom~