悲しい、うれしいといった感情は成長と共に自然に身に付くものと思っていませんか。実は、感情は親や友達など人との関わりの中で育っていくことが分かっています。感情の育み方やうまく表現するための「感情教育」を学んで、子どもの表現力や感情を豊かにしてみませんか。

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教えてくれたのは

渡邊直美さん

NTTコミュニケーション科学基礎研究所 協創情報研究部 研究主任。2015年、アメリカのジョージ・メイソン大学応用発達心理学部で博士号取得。専門は発達心理学(主に感情発達)。共著に『ひと目でわかる発達:誕生から高齢期までの生涯発達心理学』(2020年福村出版)。1歳の女の子のママ。

注目ワード「感情リテラシー」とは

感情リテラシーとは、自分の感情に気付き、言葉や表情などで表現できるチカラのこと。以下の4つの柱で構成されていて、トレーニングによって伸ばすことができます。

  1. 自分と他人の感情に気付く
  2. どんな感情か理解する
  3. 自分の感情をコントロールする
  4. 自分の感情を表現する

単純な快・不快から言葉の習得により細分化

赤ちゃんの頃は細かい感情は分からず、快か不快かを感じとって泣いたり、笑ったりして教えてくれます。それが、言葉の習得に合わせて快は、喜び、楽しみ、不快は悲しみ、怖いなどと細分化。

3歳くらいで、その感情が相手にもあることを理解し、5〜6歳頃までには「本当は寂しいけれどうれしいふりをする」といった複雑な感情も分かるようになってきます。

「うさぎのように跳ねたい気持ち」などの比喩表現ができるようになるのもこの頃です。もちろん個人差はありますが、幼児期は感情の幅が広がり、理解・表現・コントロール能力がグンと上がる時期です。

日々の会話や関わりで子どもの感情は成長

感情は成長と共に育つものと思われていましたが、実は、大人や子ども同士の関わりや、親子の日々の会話によって高められることが分かっています。

そのため、核家族やコロナ禍などの影響でコミュニケーションの機会が減ってしまった現代の子どもたちは、感情をコントロールできずに、集団の場でトラブルや問題を起こすことが増えていると言われています。

<核家族やコロナ禍の影響で今、こんな子どもが増えています>

  • 自分の感情が分からない
  • すぐにキレてしまう
  • 攻撃行動に出てしまう
  • 友達とのトラブルが多い、など…

Q.お子さんの癇癪に困ったことはありますか?

※ぎゅって読者へ2023年2月4日~3月2日にアンケートを実施。有効回答者数=603

欧米では「感情教育」を目的として、幼児期から自分の感情に気付き、それを言葉にする力「感情リテラシー」を伸ばすカリキュラムが、多くの幼稚園や保育園で取り入れられています。

感情リテラシーを育てて小学校へと上がるステップをスムーズに

幼児期に感情リテラシーをしっかりと育てることで、小学校へと上がるステップがスムーズになることが分かっています。

感情リテラシーが高い子どもは、新しいことに挑戦することに前向きで、コミュニケーション能力や社会性が高く、小学校にも馴染みやすい傾向があります。心がモヤモヤとしたときに自分の気持ちが適切に表現できることで、友達関係も円滑になっていきます。

子どもの感情、こうやって育んでみよう!

感情リテラシーを高めるステップは次の3つ。すぐにできる子どもは少ないので、普段の何気ない会話から少しずつ引き出せるよう、丁寧に聞いてあげましょう。

幼児期から始めておくと、感情について話すことが習慣化され、気持ちを的確に表現できるように。また、親や周りの人に伝えてくれるようになり、心にためないようになるというメリットもあります。

STEP1.気持ちを言葉にするよう促す

子どもの感情が高ぶっているときは、「どうしたの?」「どう思ったの?」など、言葉にするように促してあげます。

STEP2.感情の“名前付け”を手伝う

自分の分かる範囲で話してくれたら、「そっかー、悔しかったんだね」「怒っていたのね」「悲しかったね」など、気持ちに寄り添って感情の“名前付け”を手伝ってあげましょう。

STEP3.気持ちの理由を聞き、教える

名前を付けたら、「なんで怒ったのかな?」とその気持ちになった状況について聞いてみましょう。もし、うまく説明できない場合は、「こうだったから、怒ったんだね」と理由を教えてあげます。安心して気持ちが話せることで、どんどん表現することにつながっていきます。

親子の会話にプラスしたい子どもの感情をさらに豊かにする3つのポイント

気持ちを考える絵本を読んでみよう

実際には体験できないようなことが、絵本を通して体験できるので、日常会話ではなかなか使うことのない新しい言葉が習得できます。大人と一緒に考えながら読むのがいいですね。

大人の会話に入れてあげよう

家族だんらんの食事のときに、大人同士の普段の会話にも子どもを入れてあげましょう。話が分からない中でも、新しい言葉を拾い語彙力が上がると、感情表現が豊かになります。

タートル・テクニックをやってみよう

感情が高ぶったときにカメのようにぎゅっと縮こまって、1、2、3と数えて次の行動を考えるアメリカの感情教育の一つ「タートル・テクニック」。幼児期でも取り入れやすく、感情のコントロールを習慣化できます。

豊かな感情を育むためのおすすめ絵本3選

たくさんのきもち

作・絵:かしわらあきお 監修者:渡邊直美 発行元:NTT印刷(3080円・送料込み)※オンラインサイトでのみ販売

NTTコミュニケーション科学基礎研究所の研究データをもとに、幼児になじみのある50の感情語を集めた絵本。前半は文字がないストーリー編、後半は図鑑編。親子で感情に名前を付けながらストーリーを楽しむことで、相手に伝える表現力も培えます。購入時に子どもの名前や最近のできごとを絵本に記載できます。

どんなきもち?

作・絵:ミース・ファン・ハウト 訳:ほんまちひろ 出版社:西村書店(1430円)

わくわく、もじもじ、むしゃくしゃ、どきんなど、さまざまな気持ちを、カラフルな魚たちが表現。言葉の音の面白さや、表情の豊かさを美しいイラストとともに伝えることができます。0歳児からの読み聞かせ絵本としてもおすすめ。

心ってどこにあるのでしょう?

作:こんのひとみ 絵:いもとようこ 出版社:金の星社(1540円)

“こころってどこにあるのかな?”どきどきするからむね?と、感情のシグナルは、顔、足、涙、いろいろなところにあることを知ると共に、体のパーツも学べる絵本。ほのぼのしたイラストに親子でほっこりしながら、心について考えることができます。

イラスト/熊本 奈津子

※この記事は、2023年5月発行の「ぎゅって6月号首都圏版」に掲載した記事を再編集したものです