仕事と家庭の両立で毎日忙しいぎゅってファミリー。読者アンケートでは心の疲れを感じている人がたくさん見られました。そこで編集部が尋ねたのは、金髪アフロがトレードマークの精神科医、井上智介先生。働くママ&パパの心の疲れを軽くする方法を教えてもらいました。

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教えてくれたのは

井上智介先生

精神科医、産業医、健診医。精神科外来では精神疾患全般に対応し、産業医としては毎月約40社を訪問。ブログやSNS、講演等でも積極的に発信している。著書に「子育てで毒親になりそうなとき読んでほしい本」(主婦の友社)他多数。

自分で自分の機嫌を取れないと損をする

心が疲れないようにするには、ストレスの原因をすべて取り除けばいいのですが、現実には不可能ですよね。だから目を向けたいのはストレスの原因よりも自分自身の能力。ストレスを感じたときの感情をコントロールする力、言い換えれば「自分で自分の機嫌を取る力」です。

自分で自分の機嫌を取れる人は、強いストレスがかかっても、イライラや怒りなどのネガティブ感情に振り回されずに、合理的な判断ができます。一方、自分のネガティブ感情に振り回される人は、いろいろな場面で損をしてしまいます。

例えば職場でイライラを爆発させれば、周囲との関係が悪化したり、それまで積み上げてきた信用を失ったりするでしょう。家庭で暴言を吐いたり、暴力をふるったりすれば、家族の安心安全な場所を壊してしまいます。

「自分で自分の機嫌を取れないと、自分が損をする」ということを心に留めつつ、自分の機嫌の取り方を習得していきましょう。

questionあなたの心の疲労度を5段階で表すと?

  • レベル1:全然疲れていない。毎日元気!
  • レベル2:あまり疲れていない。うまくリフレッシュできている
  • レベル3:疲れているときもあるけど、まあ大丈夫
  • レベル4:やや疲れが溜まっている
  • レベル5:かなり疲れが溜まっている。毎日がつらい
ぎゅって読者へ2023年6月9日~7月6日にアンケートを実施。n=821

自分の機嫌を自分で取れるようになるための3つの心構え

怒りやイライラが強くなるほど、感情コントロールの難易度が上がります。自分で自分の機嫌を取れるようになるには、そうした難局を回避することから始めましょう。

心構え1.相手にも自分にも期待しない

まず、相手が誰でも「自分の思い通りに動いてほしい」と期待するのをやめてみましょう。期待と現実との差が大きいほどイライラが増すので、最初から期待しなければイライラを減らせます。

自分への期待も同じ。「自分は完璧にやるべきだ」と思っていると、現実との差がストレスに。最初から60点を合格点にしておくと、思い通りにできなくても「まあいいか」と自分を許せるでしょう。

心構え2.人と適度な距離を取る

ストレスを受けにくくするには「人と適度な距離を取る」というのも大事なポイント。職場でも、苦手な人と仲良くなろうとして無理に近付く必要はありません。「仕事に支障がなければOK」と割り切り、距離を保ってコミュニケーションをしましょう。

また、好きな人や家族でも、ずっと一緒にいればストレスが溜まるもの。離れて過ごす時間も大切にしてください。

心構え3.機嫌が良くなることをストックしておく

イライラしたときの「備え」も大切。平常心のときに「これをすれば気持ちが落ち着く、機嫌が良くなる」ということをリストにしておきましょう。好きな食べ物、動画、音楽、香り、場所、マッサージなど、できるだけ簡単で、五感にポジティブに働くものがベターです。目標は50個〜100個。イライラしたら、そのストックからやりたいことを選んで実行してみましょう。

こんなとき、どうすればいい?「心の疲れ」お悩み相談

読者アンケートで寄せられたお悩みについて、井上先生にアドバイスをいただきました!

questionパートナーにイライラして、優しくできません

パートナーに「もっと◯◯してほしい」と期待していると、そうしてくれない現実との差でイライラします。やってほしいことは具体的な言葉で伝えて、期待と現実の差を縮められるといいですね。

ただ、どう言っても分かってくれないなら、「期待しない」と割り切るほうがラクかも。「自分は大変な思いをしているのに、パートナーは好きなことをやっている」と恨む気持ちがあるなら、自分も好きなことをやる時間を積極的に作ってみて。相手ではなく、自分自身に意識を向けてみましょう。

question子どもにイライラして、きつく接してしまいます

子どもは対話が難しく、大人とは倫理観がまったく違います。まずは「子どもにイライラするのは仕方ないこと」と認めて、受け入れましょう。問題は、イライラが態度に出て「きつく接してしまう」という部分。エスカレートすれば虐待になってしまう可能性もあります。

ぜひやってほしいのは、怒りのピークを速やかに下げる方法をいくつか用意しておくこと。一旦子どもから離れる、トイレに子どもからもらった手紙を置いておいて読む、歯を磨くなどもおすすめですよ。

question仕事と家事・育児のバランスが取れず、常に余裕がありません

これは真面目な人完璧主義の人に多いお悩みです。今は、仕事も育児も家事も「こうすればうまくいく」という情報が溢れていますが、全てこなすのは無理ですし、そもそもその情報が正しいとは限りません。

まずは自分への過剰な期待をやめて等身大のキャパシティで、仕事、家事、育児で手を抜けるところを探し出しましょう。今日をすごく頑張って乗り切ったとしても、明日も明後日も同じことが続くのです。長い道のりなので手抜きも息抜きも大切にして、持続可能なスタイルを見つけていきましょうね。

questionパートナーもかなり疲れている様子。どうサポートするといい?

「好きなものを食べなくなった」「楽しんでいたテレビや動画を見なくなった」「やたら『疲れた』と言う」など、普段と違う様子が見られるようになったら、メンタル不調の兆し。パートナーが精神的に孤独にならないように、「いつでもどんな話でも聞くからね」と伝えてください。

重要なのは「待つサポート」です。過干渉になっていろいろしてあげても、メンタルはそう簡単に回復しません。最後には「私がこんなにやってあげているのに!」とキレて破綻することが多いので、注意が必要です。

questionちゃんと寝ても疲れが取れず、朝起きるのがつらいです

睡眠の質が悪いのか、その睡眠時間では疲労回復できないのか、いずれにしても非常に疲れが溜まっている状態。これは対処療法ではなく、疲れの原因を少しでも解消するアプローチが必要です。子どもの夜泣きが原因ならパートナーに任せる、寝室を分けるなど、家族の理解や協力も得ましょう。

朝起きられないために仕事に行けない、保育園に遅れる、ご飯が作れないなど生活に支障がある場合は病院へ。内科でも心療内科でもいいので、早めに受診してください。

医学・心理学的な裏付けあり!おすすめストレス解消法

医学・心理学的にエビデンスがあるストレス解消法を紹介します。といっても、全ての人に効果があるということではありません。いろいろ試して自分に合うものを見つけてくださいね。

自然を感じる

自然を感じると「コルチゾール」というストレスホルモンが減少します。ベストは森林浴ですが、公園を10分ほど散策したり、ベンチに座ってぼーっとするのでもOK。このときスマホは見ないで。オフィスから青空を眺めたり、花や動物の写真を見たりするだけでも効果があります。

背筋を伸ばす

姿勢とメンタルには深い関係があります。気持ちが落ち込むと背中が丸まるだけでなく、背中が丸まっていると気持ちが落ち込むという相関関係もあるので、背筋をピンと伸ばしてみて。やる気も湧きやすくなります。

歯を磨く

歯磨きをすると脳の疲労が回復し、集中力アップやリフレッシュの効果が。また、歯茎を刺激すると、眠気のホルモンが減ってシャキッとします。磨きすぎると歯のエナメル質を損傷するので、1日4回までを目安に。

仮眠を取る

昼食後に30分以内の仮眠を取ると午後のパフォーマンスが向上します。横になると血圧が下がって寝起きがだるくなるので、机に突っ伏して寝るのがおすすめ。5分間目をつぶるだけでも脳を休めることができます。

いろいろ試してもつらさが軽減できないときは

心の疲れは悩みやつらさを吐き出すだけでも軽減します。心療内科のハードルが高ければ、友人や家族など信頼できる人に話を聞いてもらうか、自治体の精神保健福祉センターや保健所で相談してみましょう。内科や婦人科で体を調べてもらい、何もなければ心療内科につないでもらうという順序でもOKです。

心療内科にかかるときは、困っていることを箇条書きにしたメモを持参すると、医師が的確な診断をしやすくなります。心の疲れが溜まったときは、ひとりで抱え込まないで、周囲や専門家の力も借りてくださいね。

イラスト/タオカミカ

※この記事は、2023年11月発行の「ぎゅって11月号首都圏版」に掲載した記事を再編集したものです