モンテッソーリ教育には「実体験を通して学ぶ」という考え方があります。最近の学習指導要領でも「主体的に学ぶこと」の重要性が強調されていますが、主体的な学びの基本は「物事を経験すること」です。今回はそのメリットと大人の関わりについて考えます。

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「実体験を通して学ぶ」とは?

「百聞は一見に如かず」ということわざの通り、私たちは言葉で何かを説明されるよりも実際に見て、触れて、体験する方がずっと理解しやすいものです。特に幼児は五感を通して物事を体験することによって、さまざまな概念を体得していく時期です。

大人は文章から内容を想像したり、文章に書かれていないことも過去の経験で補ったりできますが、子どもはそういうわけにいきません。子どもが物事を知るには、実物に触れるということがとても大切です。

モンテッソーリ・メソッドでは年齢や発達に応じた教具を使いますが、教具のない活動の場合でも、全てにこの哲学が適用されています。

教具を使わない活動の例

  • 自然科学の視点から身の回りの環境に親しむ「文化」の領域では、積極的に体験学習を行う。例えば、花の構造を知るために模型や絵を使うだけでなく、戸外に行って本物の花を観察する。太陽系について学ぶには、惑星の模型を手に持ち、自転や公転の動きを実際にやってみる、など
  • 教師は子どもの疑問には直接答えず、自分で納得する答えを見つけられるように手伝う
  • けんかは教師中心に解決するのではなく、子ども同士で解決できるよう手助けする
さまざまな形の葉を探して観察している様子

教具を使った活動の例

  • 「日常生活」で必要な動作、指先の動きなどを練習するために、ハサミやのり、針など日用品を使う
  • 積み木や色板、図形などを使って「大きさ」「太さ」「長さ」「暖かさ、冷たさ」「色の濃淡」「図形の識別」などの概念を「五感」でとらえる
  • ビーズを数える、切手を模した教具を使って4桁の数を作るなど、実物を使って「数」の概念を体得する
切手を使った4桁の足し算を行なっている年長児

実体験から学ぶメリットとは?

モンテッソーリが徹頭徹尾、子ども主体に活動を展開することにこだわっているのにはきちんとした理由があります。幼児の発達上、言葉よりも感覚が優位であるというという前提はもちろんありますが、そのほかにもメリットがたくさんあります。

私なりにまとめてみました。

聞いて覚えることよりも、体験する方が圧倒的に面白い

読んで字のごとくです。聞く、読むという行為だけでは、自分がよっぽど知りたいことでない限りなかなか楽しさを理解できません。誰かから聞いたことや文章はあくまで「他人事(ひとごと)」であって、自分が参加する余地がありません。

それに対して「体験したこと」は「自分ごと」になります。フルに五感を働かすことによって、物事を感じて「楽しむ」ことができます。

自分の感想や考えが生まれ、学びが「自分のもの」になる

自分で体験すれば、そこに「楽しかった」「おいしかった」「ザラザラしていた」「不思議だった」など個人の感想が生まれます。同時に「こうしたらどうなるだろう」「こうだったらいいのに」など疑問や考えも浮かびます。学ぶ対象と自分との間に接点が生まれ、自分だけの、オリジナルな学びになります。

記憶に残り、再現しやすい

自分の手や体を使って体験、体得したことは、記憶に残りやすいものです。試験対策のために丸暗記したものはあっという間に忘れてしまうものですが、体験はなかなか忘れませんから後からでも再現しやすいのです。

面白さ、不思議さを見つけられるようになる

子どもはもともと楽しむ名人ではありますが、大人がうまく関わることによって物事の「面白いところ」や「不思議なところ」を積極的に見つけて、表現できるようになります。

本を読んだり、映像を見たりすることも良いですが、やはり体験に勝るものはありません。

私たち大人は、つい「学び=机で勉強するもの」というイメージをしやすいのですが、身の回りの体験から何らかの気づきや発見を得ることが、より主体的な学びに近づく方法ではないでしょうか。

大人のさりげないサポート

ここまで実体験から学ぶということの重要性を話してきましたが、具体的にはどんなことから学べるのでしょうか。

「実体験」というと、もしかしたら旅行や職業体験を想像する人もいるかもしれません。そういうものも悪くはありませんが、それよりもむしろ日常的に身の回りにある環境に目を向けることをおすすめしたいと思います。

例えば、休日に子どもと一緒にサンドイッチを作って公園に不思議探しに出かけてはいかがでしょうか。普段何気なく過ごしている公園にも、よく見ればいろんな草花や生き物がいるものです。

そういう小さなものを探して面白がることこそ、子どもにとっては大切な体験だと思います。そして、冒険の後に食べる自作のサンドイッチはきっととてもおいしいことでしょう。

子どもが主体の学びとは言っても、幼児にとって「面白さ」「不思議さ」に気づいて表現することは、まだ難しさがあります。そこで大人の出番なのですが、特に難しいことは何もありません。

ポイントは、

物事の面白いところを見つけて、楽しむ

これだけです。とにかく、身の回りの面白いことを見つけては子どもに紹介したり、何かを感じて表現したりしてみてください。

私はよく散歩の道すがら、季節の草花や虫を見つけて子どもたちと観察しています。「面白い形の葉っぱだね」と素直な感想を子どもたちと言い合います。どんどん形を変えていく雲を見ては「綿あめみたいでおいしそう」と言ってみたり、「なんで動くんだろうね」と不思議を伝えたりします。

教室で初めての教具を子どもに紹介して見せるときも、縫い物をしている子どもを手伝うときも、「楽しさを伝える」という点を忘れないようにしています。

大人が楽しんでいるのを見ている子どもは「なんだか面白そう!」と感じるものです。面白そうだなと思ったことはやってみたくなるものです。それが、子どもの活動を広げる原動力になるはずです!

夏のおすすめイベント情報

子どもの主体的な学びを考えるきっかけとして、8月に行うイベントを紹介します。8月4日のシンポジウムには私も登壇する予定です!

新しい学びを知り、ともに考える祭典、Learn by Creation (ラーン・バイ・クリエイション) 8/3-4に開催。

「100年に1度の時代の変化」、「人工知能(AI)の時代」と言われる大きな時代の流れの中、来年には新しい大学入試や学習指導要領がスタートします。

これからの時代「主体的で対話的で深い学び」が求められている一方、日常生活ではそれがどういった学びなのかをじっくり理解して考える機会は少ないのが現状です。

ラーン・バイ・クリエイションでは、「知る」、「つながる」そして「協働する」を軸に、新しい学びへの理解が深まるプログラムを多数準備しています。

  • 39名の国内外の教育者や創造的な仕事実践者による講演やパネルディスカッション
  • 12校中高生による主体的で深い学びの発表
  • 保護者向けワークショップや対話型セミナー
  • 木工やアートからプログラミングまで、子ども、親子でワクワク楽しく参加できるワークショップ
  • 教育ドキュメンタリー映画3本上映対話会

夏は子育て方針や秋からの授業を見つめ直す良いチャンス!子どもの「好き」や家族の「これが大切」への気づきを見つけに来ませんか。

名称 Learn X Creation (ラーン・バイ・クリエイション)
2019/8/3~8/4
公式サイト http://www.learnx.jp
※最新の情報はこちらでご確認を
対象

保護者と子ども(8/4には小学生以上向けのワークショップが多数あります)
料金 大人:1日券 4500円 (早割料金 7/28まで)/ 2日券 8500円 (早割料金 7/28まで)、子どもは無料
開催時間 9:30開演、18:30終了(8月3日)

10:00開演、17:00終了 (8月4日)予定
会場 広尾学園中学校 高等学校

聖心女子大学グローバル共生研究所
サービス 託児サービスは有りませんが、子どもの同伴は可能
後援 経済産業省

この記事を書いたライター

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堀田はるなさん

モンテッソーリ原宿子供の家・モンテッソーリすみれが丘子供の家教員、保育士。アパレル業界、eコマース、金融など様々な業種でのマーケティング業務を経験後、教育の道へ転身。日本モンテッソーリ協会承認モンテッソーリ教員免許取得。著作「子どもの才能を伸ばす最高の方法 モンテッソーリ・メソッド」。

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