/ 2017.10.04

2児のパパ目線、そして新聞記者の目線で子育てや世の中の気になることを読み解く、高橋天地さんの「新聞記者パパのニュースな子育て」。今回のテーマは、秋から冬にかけて増える「血管事故」。急激な運動をする前に知っておきたいそのリスクとは?

執筆

高橋天地さん

平成7年、慶應義塾大文学部独文学専攻を卒業後、産経新聞社へ入社。水戸支局、整理部、多摩支局、運動部などを経て、SANKEI EXPRESSで9年間映画取材に従事した後、文化部で生活班を担当。育児、ファッション、介護、医療、食事、マネーの取材に精力を注ぐ。平成29年10月1日より1年6カ月ぶりに映画担当となる。

運動不足気味の親にはツライ「保護者競技」

オシャレに目覚め始めた4歳の長女は鏡に写る自分をいろいろな角度からチェックしつつ、節をつけて歌い踊り、最近歩くのと姉の真似っこが楽しくて仕方ない1歳3カ月の次女もなにやら懸命に唱えながら、腕を拡げたり閉じたりしている。しめくくりに2人で声をそろえて「おー!」とばかりにこぶしを振り上げ、大喜び。

10月中旬、今年もまた子どもたちが通う保育園の運動会が開催される。保護者が参加する競技については、昨年実施されたという「リレー」のほか、「大綱」などいくつかの候補が挙げられ、シールによる投票の結果、比較的穏やかな印象の「くすだま」が賛成多数で選ばれたそうだ。

昼夜逆転で原稿執筆に明け暮れ、運動不足の毎日を送る中年記者としては、「運動会の保護者競技」と聞くと、明るく楽しいイメージよりも、自分などが急に張り切ったらとんでもないことになりそうだ…という不安ばかりがジワジワと募ってしまうのが情けないが偽らざるところ。

しかし、実際、秋から冬にかけては、脳出血、脳梗塞、心筋梗塞などの「血管事故」が目に見えて増える時期なのだというから、この不安、あながち間違いとも言い切れないのかもしれない。

男性は30代、女性は40代から増え始めており、決して『自分は若いから無関係』と過信せず、注意が必要でしょう

生活習慣病の予防・治療に詳しい「池谷医院」(東京都あきる野市)の池谷(いけたに)敏郎院長(55)はこう警鐘を鳴らした。

池谷医院(東京都あきる野市)の池谷敏郎院長

血管事故のメカニズム

そもそも血管事故はどのようにして起きるのだろう。池谷院長はメカニズムを解説してくれた。

「加齢に加え、過食や運動不足による生活習慣病、喫煙などによって血管内の壁にコレステロールなどの脂質が蓄積し、粥状の塊『プラーク』が形成されます。これが動脈硬化であり、進行すると血管内が狭まり、血流が妨げられます。この過程でプラークが傷つけば、そこに血栓(血の塊)が生じて、血管が詰まってしまうのです」。

「例えば、この状態が脳動脈で起これば脳梗塞、冠動脈で起これば心筋梗塞をを引き起こす可能性がそれぞれ高まります。また、動脈硬化は血管壁がもろくなるため、内圧に負けて壁が破れて出血すると、脳出血や大動脈瘤破裂などを発症する危険性も高まります」。

プラークが大きくなるのは、血液中のLDL(悪玉)コレステロールの増え過ぎが引き金となるが、その状態をより悪化させる要因となるのが、HDL(善玉)コレステロールの減少と、中性脂肪の増加だという。血管は「外膜」「中膜」「内膜」の3層で構成され、血液が流れているのは内膜より内側の部分だ。

「内膜がダメージを負うと、血管壁内で白血球の一つである『マクロファージ』が酸化されて変性したLDLコレステロールを大量に取り込んでプラークができるのです」。

©産経新聞社「血管事故が起きるメカニズム」

秋から急性心筋梗塞の死者数が増加

さて、血管事故は秋の深まりとともに増えていくというのだが、厚生労働省が発表した「平成28年人口動態調査・急性心筋梗塞による死亡数」を見ると、その傾向は一目瞭然だ。

厚生労働省「平成28年人口動態調査・急性心筋梗塞による死亡数」/ 作図©産経新聞社

27年10月の死亡者数は全国で2847人。その後、11月は2939人、12月は3601人、28年1月は4118人-と増え続け、2月以降は3690人、3月・3391人、4月・2844人…と夏にかけて減っていく。

1カ月程度の暴飲暴食も悪影響を及ぼす

では、秋から冬にかけて血管事故が増えるのはなぜか。大前提として、血管事故のリスクを高めるのは、長年の生活習慣の蓄積に伴う、高いLDLコレステロール値や中性脂肪値などの脂質異常・高血圧・高血糖の影響が大きい。

ただ、1カ月程度、暴飲暴食を重ねても、これらの数値は悪化し、血管に悪影響を及ぼすと、池谷院長は指摘する。

「例えば夏にのどごしのいい麺類に偏ったメニューばかり食べたり、ビールを飲む機会がぐっと増えるだけでも、糖質や塩分の摂取量が多くなるので、血糖値や血圧値の悪化を引き起こして〝血管力〟が低下してしまいます」

このような血管の状態のままで秋を迎えると、わずか1日の間に10度以上の気温変動が起きたり、スポーツの秋だからと急激な運動を行うことによって、血圧が急上昇し、プラークが傷ついて血管事故を招いてしまうという。

30代、40代から注意を

ここで池谷院長は注意喚起したいのは、一見、「中高年以降の病気」というイメージを持たれやすい血管事故だが、実は男性は30代、女性は40代から始まる-という点だ。

「食の欧米化、運動不足、24時間営業のコンビニエンスストアの普及に伴う不規則な睡眠時間や生活習慣の乱れなどを背景に、20~30代の若者でも動脈硬化が見られるようになりました」。

近年は、高脂肪食や高カロリー食の過剰摂取など食生活の乱れのほか、運動不足によって引き起こされる「2型糖尿病」が子どもの間でも目立つようになっているそうだ。

女性ホルモンが減少は、血管事故のリスクを高める

男性が30代から血管事故のリスクが高まるのは乱れた生活習慣の積み重ねが原因とみていい。一方、女性が40代から注意が必要となるのは、女性ホルモン(エストロゲン)が減少するからだ。

「女性ホルモンはLDLコレステロール値や血圧を上げにくくするなど、血管事故を防ぐ役割を担うものだ。閉経へと至る過程で、卵巣機能の低下から女性ホルモンが減り、血管事故を招きやすい状況になる」という。

予防策は?

池谷院長は「一つ一つ日頃の生活習慣を正して、良い血管のコンディションを維持するのが大事。まずは毎回の食事の中身を吟味し、コツコツと運動する習慣を身につけることをお薦めします」と話す。

ここでこのほど池谷院長が監修した「血管事故のリスクが高まる生活習慣チェックリスト」を紹介したい。1つでもチェックがついた場合、血管事故が起こりやすい状況に近づいていることを注意を与えるもので、生活習慣の見直しが必要だと認識を改めてもらうものだ。

血管事故のリスクが高まる生活習慣チェックリスト

  1. 麺類をよく食べる
  2. 素麺や冷やし中華など、麺類の汁は飲む
  3. ビールや日本酒をよく飲む
  4. 糖質制限をしているが、肉類は気にせず食べている
  5. お肉は赤身よりも“さし”の入ったものを食べる
  6. アイスクリームやケーキをよく食べる
  7. ?油やソースを好む
  8. 運動は、朝一番でする
  9. 準備体操などをせずに、急に運動をする
  10. 水分や食事をとらずに運動をする

「ノンデイリー(non dairy)」商品に注目

さらに、池谷院長は、血管のコンディションを保つ食材選びのコツとして、食べる機会の多い身近な食品「乳製品」を植物性の原料で代替した商品「ノンデイリー(non dairy、乳製品ではない)」にしてみるのも一考と提案した。

「ノンデイリーヨーグルト」などは、最近は目にする機会も多くなった商品の一つだろう。

「市販の豆乳を原料に作った〝ヨーグルト〟には、動物性の脂肪がなく、LDLコレステロールも含れていません。そればかりか、大豆タンパク質の働きによって、LDLコレステロール値を下げることも確認されています。

さらに、豆乳に含まれるイソフラボンが女性ホルモンに似た働きをするので、血管内の傷を修復し、血管をしなやかに保つ働きをすることが期待できるのです」。

豆乳を原料とした〝チーズ〟、アーモンドで作った〝ミルク〟なども存在し、米国ではさらにさまざまなノンデイリーがあるという。

さまざまなノンデイリー商品

参戦より観戦

妻の話によれば、昨年のリレーでは日頃から体を鍛えている先生や保護者たちによる真剣勝負、かなりの熱戦が繰り広げられ、会場は湧きに湧いたそうだ。しかし、高望みはするまい。

今年の自分の目標は、どんなに締め切りが重なってもこの日だけは確実に空けられるよう時間を作り、昨年の分まで長女の、そして初めての運動会を経験する次女の奮闘を自分の目でしっかり見届けることだ。

「パパ、見て見て、みーて!」。しつこいほどにそう言ってもらえるのも、諸先輩によればあとほんの数年のことらしい。かつて車のCMのコピーじゃないが、いま自分がなにより走らせるべきは「家族の季節」なのだろう。