2017.10.03 / 2017.10.04
2児のパパ目線、そして新聞記者の目線で子育てや世の中の気になることを読み解く、高橋天地さんの「新聞記者パパのニュースな子育て」。今回のテーマは“スメハラ”。日本固有の問題で、数年前から浸透したものだそう。気づかれずに臭いを防御する方法は?
執筆
- 高橋天地さん
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平成7年、慶應義塾大文学部独文学専攻を卒業後、産経新聞社へ入社。水戸支局、整理部、多摩支局、運動部などを経て、SANKEI EXPRESSで9年間映画取材に従事した後、文化部で生活班を担当。育児、ファッション、介護、医療、食事、マネーの取材に精力を注ぐ。平成29年10月1日より1年6カ月ぶりに映画担当となる。
日曜日の悲劇
とある週末、めずらしく当面の締め切りを一通りこなし、早めの時間に帰宅することができた。心も軽く、深夜とは違う表情をみせる街を見回していると、いつもは長蛇の列をなしている、てんこ盛りラーメンの名店「ラーメン二郎」の入り口が清々としている。
待ち人はわずか3人だった。これはチャンス。ラーメン好きの私はすかさず最後尾に並び、5分と待たずに店内へ。無料のトッピングは「野菜とニンニク、増し増し」で堪能、Facebookへの投稿も完了し、大満足で帰宅し風呂に入るとすぐに睡魔に襲われた。
翌朝目覚めると、妻と娘たち(4歳と1歳3カ月)はすでにどこかに出かけている。心なしか幾分すっきりして見えるリビングでほっと一息。新聞やテレビでニュースをチェックし、身支度をした後、家を出た。日曜日だがその日も仕事だったのだ。帰宅すると
パパくっさい!ひどいにおいよねえ!
妻の口調をそっくり真似た、長女の一撃が待っていた。
なんでもその日、妻と娘たちは、長女の同級生と母親と一緒にレストランでランチの約束をしており、腹を満たした後そのまま我が家にお招きしたのだという。
「散らかってますがどうぞー!」。娘たちが寝静まった夜中、泥縄でなんとか掃除した我が家のドアを妻が満を持して開けると、強烈なにんにくの臭いが一瞬で玄関いっぱいに充満し、妻ら5人はしばし絶句したのだという。
「自分では分からないんだろうけど」。目も合わせず吐き捨てる妻を尻目に、私は自分の部屋に入ると、大きな消臭芳香剤が入口に置いてあった。
日本固有の問題
臭いで周囲に不快な思いをさせるスメルハラスメント(スメハラ)がクローズアップされるなか、職場の女性たちは臭いを防ぐためになんらかの行動をとっていることが、調査会社のアンケートで分かった。同僚女性のこんなしぐさは、あなたの臭いへの注意信号、かもしれない。
「臭いの強い人が使用した後の会議室に嫌な臭いがこもっていました。次に使用するメンバーたちと協力し、窓を開けて換気しました」。東京都内の女性会社員(27)は渋い表情で語る。
そもそも職場で「臭い」が意識されるようになったのはいつからか。2011年の東日本大震災以降とするのは、男性用化粧品メーカー「マンダム」(大阪市中央区)広報部の奥啓輔主任(31)。
「節電意識が高まり、暑くても少し我慢しようという空気が生まれ、ビジネスシーンで汗をかく場面も増えました」。奥主任によれば「同時に、汗の嫌な臭いへのケア意識が高まった」。
そこで同社は、企業や就職活動中の大学生を対象にスメハラを予防するための出前講座を実施し、制汗剤の効果的な使い方などをアドバイスしている。
「職場のハラスメント研究所」(東京都文京区)は、数年前から日本国内で浸透したとする。海外では認識されていないとも。スメハラは、日本固有のものというわけだ。
ちなみに、臭いの問題は職場に限定されない。「満員電車で強い臭いの男性が近くにいた場合、息を止めたり、別の車両に移動したりします。自分の服にも臭いがうつるのでは…との不安もあるからです」と女性会社員(22)=東京都=は話す。
女性はどう防御する?
さて、臭いに対する意識が高まるなか、市場調査会社「マクロミル」(東京都港区)が「ビジネスシーンにおけるニオイに関する調査」(調査期間8月28~31日、有効回答500)というインターネット調査を行った。対象は全国の20~49歳の女性。
「男性の身だしなみで最も気にしている点は?」の質問には、調査期間が8月の終わりということもあってか回答者の44.8%と約半数が「臭い」を挙げた。
「臭い」が気になる場所は、①電車(70.8%)②オフィス(60.6%)③エレベーター(55.4%)だが、不快に感じたからといって相手に注意するかといえば、さすがに85.6%は「NO」。
となれば、〝自衛〟するしかない。実際に85.2%が「相手の臭いをブロックする行動をとる」と回答。アンケートは6つのしぐさを写真で提示。その中から選択する形で、臭いをブロックするのにどのようなしぐさをするかを聞いた。結果は次の通り。
- 鼻の下に人差し指をあてる(34.5%)
- 鼻の下にげんこつをあてる(31.2%)
- 手のひらで鼻と口を覆う(24.2%)
- 鼻をつまむ(8.7%)
- 両手をげんこつにして鼻を押さえる(7.5%)
- 両手のひらで鼻を左右から押さえる(5.2%)
その他自由回答では、「顔を背ける」「口呼吸に切り替える」「袖で口を覆う」「携帯電話やハンカチなどとりあえず手持ちのグッズで鼻を押さえる」など。
鼻を押さえたり、顔を背けたり、さりげないというより分かりやすい行動に見えるが、この点についてアンケートの広報担当者は、「同僚を傷つけたくはない。一方、臭いは商談や社内のコミュニケーションでマイナスになることも分かってほしい。6つのしぐさは、ギリギリの意思表示です」と説明する。
そのうえで「女性のこのようなしぐさを見たら、一度立ち止まって自分の臭いかもしれないと確認してほしい」と期待する。
逆ハラスメントにも注意
ただ、臭いの原因である当人に対して不用意に口頭で注意することが、逆のハラスメントになることもある、と都内の企業で総務を担当する女性(46)は注意を促す。
「『臭い』『臭う』という言葉は、個人の人格を否定し、いじめの現場でも便利な手段として使われています。指摘の方法はくれぐれも慎重に」 相手との距離や人間関係からみて、適当だと思う表現を誠意をもって探すべきだという。
保育園児もびっくり
「すみません、facebookをみたら、なんかパパはゆうべ二郎で食べたみたいで…」。そういって詫びると、「いえいえ、まだ二郎に行けるなんてパパさんは健康なんですね」。機転のきくママ友さんから心やさしい返しをされ、妻は顔から火が出そうだったという。
それからしばらくの間、一緒にお風呂に入っているときや遊んでいるとき、ふいに長女が「パパ、すんごい臭いだったねえ!」と、おどけた様子でふりかえることがあった。そこまで強烈な体験だったのか、はたまた子どもながらに両親の間に漂う気まずい空気を和ませる意図だったのか。
ろ紙を限界まで引き出した状態の消臭剤は、いまだ部屋の入り口にでーんと置いてあり、なんだか結界をはって封じ込められているような気分だ。ママへ。メッセージはもう十分伝わったので、そろそろ空気を入れ換えませんか?