近年、「ジェンダー平等」という言葉をよく目にするようになりました。ですが、ぎゅって世代へのアンケートでは、「自分がどうすればいいのか、よく分からない」という声も。そこで今回はジェンダーの基本や、多く寄せられた疑問について解説していきます。

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教えてくれたのは

内海﨑貴子さん

川村学園女子大学教育学部児童教育学科教授。専門は教育学(人権教育、ジェンダー平等保育・教育)、女性学(性の多様性、セクシュアリティ)。保育士、教員、区市町村職員の研修などでジェンダー平等の重要性を啓蒙している。

ジェンダーってなに?ジェンダーバイアスってどんなもの?

ジェンダーとは「社会的文化的な性別」のこと。「生物学的な性別(sex)」と区別して使われる言葉です。

世の中には、「男子は理系で、女子は文系」「男性は仕事で稼ぎ、女性は家事や育児を担う」「校長先生は男性、保健室の先生は女性」など、性別でイメージする性役割(ジェンダーロール)がたくさん存在しています。

本来、こうした役割は性別に関係ないはずですが、男女が逆転すると違和感を持つ人も多いでしょう。このような「男だから◯◯」「女だから◯◯」という思い込みや先入観がジェンダーバイアスです。

そもそも人間は平等で、ジェンダーに優劣があってはいけません。しかし、社会的に形成されたジェンダーバイアスによって、自分らしく生きられず苦しんだり、不当な差別を受けている人がたくさんいるのです。

■調査対象者:子育て情報サイト「ぎゅってWeb」「あんふぁんWeb」メール会員(全国)のうち、小学生以下の子どもをもつ保護者 ■調査時期:2022年2/16~3/6 ■回答数:681人 ■出典:こどもりびんぐ「シルミル研究所」、電通ダイバーシティ・ラボ

日本のジェンダー・ギャップ指数は先進国で最下位!

ジェンダー平等のレベルを示す一つの指標が「ジェンダー・ギャップ指数」。これは国の経済・教育・政治参加などについて男女平等レベルを数値化したもので、2022年の日本は146カ国中116位、主要先進国では最下位でした。

日本は世界の中で見ても、男女格差が大きな国なのです。例えば共働き家庭でも、家事・育児の役割負担が、妻に偏る傾向があります。もちろん、夫婦が納得している分担であれば、全く問題ありません。

しかし「女性は家事や育児をするべき」「男性は残業や休日出勤もして当然」といったジェンダーバイアスによって負担が偏っているなら、改善するべきでしょう。

「いろいろな人がいていい」と親が思えば、子どもに伝わります!

幼児期はジェンダー形成の土台になる時期。服装や髪型などの性表現(ジェンダーエクスプレッション)の志向は、4〜5歳くらいに顕著になります。この時期に「いろいろな人がいていい」というジェンダー観を身に付けておくことが、とても大切です。

そのために親が心掛けたいのは、親自身が「いろいろな人がいていい」と思うこと。自分の中にあるジェンダーバイアスに気付いて、少し言動に気を付けるようにするだけで、子どもにその思いが伝わっていきます。親がジェンダー観に縛られないことは、子どもの将来を広げていくことにもつながるでしょう。

子どもが「いろいろな人がいていい」と思えるようになると、自分が周囲に求められる性役割にそぐわないときも「自分は自分のままでいい」と自尊感情を保つことができます。また、ジェンダー観が異なる子を批判したり、いじめたりすることもないでしょう。

目指したいのは「一人ひとりのよさを認める社会」

ジェンダー平等は「目的」ではなく、より多くの人が幸せに生きられるようになるための「手段」。本質的に目指すべきゴールは、「一人ひとりの違いやよさを認められる社会」「誰もが自分らしく生きられる社会」です。

日本でもジェンダー平等の意識は高まりつつあります。LGBTQの芸能人が活躍し、男性用コスメもヒット。国も女性の管理職や男性の育休取得者を増やすように働きかけ、学校でもジェンダー平等教育が行われるようになりました。

ぎゅっての読者の多くは、ジェンダーに関する教育を受けていない世代ですから、自分で社会の変化をキャッチしながら、価値観をアップデートしていきましょう。

こんなとき、親はどうする?Q&A

ジェンダーの問題は難しく、モヤモヤを感じている人もたくさん。みんなの疑問に内海﨑先生からアドバイスをいただきました。

question服やおもちゃ、ランドセルなど子どもの好みを尊重したいけど、周囲の目も気になってしまう…

A:親の子育て観や子どもの性格も含めて判断しましょう

周囲の目を全く気にしないというのは、現実的には難しいものですよね。まずは子どもになぜそれがいいのか聞いてみてください。そしてその意見や、親の子育て観、子どもの性格なども含めて判断しましょう。「誰かに『変だよ』っていじめられないか心配なんだ」などと親の意見を伝えたうえで、子どもに判断を任せるのも一つの方法です。

特にランドセルは6年間使うので、好きな色にしてあげたいのと同時に、その色でいじめられないかという心配もあるもの。色の許容度は地域差も大きいので、地域の小学生のランドセルもチェックして、慎重に検討しましょう。

question「息子はたくましく、娘はかわいく育ってほしい」と願うのはダメ?

A:子どもの志向が違ったときに押し付けなければOK

それも価値観ですから、願うこと自体は問題ありません。ただ、子どもの志向が違っていたら、親の願いを押し付けないようにしましょう。今の10~20代前半はジェンダーについて学んでいるので、「男の子はたくましく、女の子はかわいく」というジェンダー観をほとんど持っていません。今の子どもたちが大人になる頃には、古びた感覚になっているかもしれません。

questionわが子にLGBTQかもしれない言動があったら、どうする?

A:子どもの言動を否定しないことが大切です

まず、「わが子がLGBTQだったら、自分は受け入れられるか」と自問しましょう。もし心の準備ができなくても、「否定しない」ということだけは守ってください。

幼児期には性自認(心の性)や性的指向(好きになる性)が揺れることもありますが、いずれ本来持っている方向に落ち着きます。親が焦って「ダメだよ」「変だよ」などと否定して強制的に変えようとしても、変えることはできません。

子どものときに親に否定された子は、いずれLGBTQを自認しても親にカミングアウトできず、親子関係に苦しむケースが多いのです。

question子どもが「私は女の子だからかわいい服が着たい」と言ったら?

A:子どもの考えを認めつつ違う価値観の例も示して

「女の子はかわいい服」「男の子だから青色」など性別を意識して考えるようになるのは3歳くらいから。それも一つの考え方ですから否定はせず、「そうなんだね」と受け止めましょう。

そのうえで、「ママは女だけどカッコいい服も好きだよ」「パパは男だけど、ピンクの服も似合うよ」など、違う考え方をさりげなく示しておいて。自分と違う価値観の人も尊重できるようになるでしょう。

question配偶者や祖父母の「男の子(女の子)なのに○○」という発言に違和感があります

A:夫婦の方針はよく話し合ってすり合わせましょう

夫婦のジェンダー観が大きくずれていると、子どもは混乱します。配偶者には「世の中は変わってきていて、子どもにジェンダー平等の価値観を身に付けてほしいから、協力してほしい」と話して、方針をすり合わせましょう。

一方、祖父母はジェンダー不平等が当たり前の時代に生きてきた世代。その価値観を否定すれば、人生を否定することにもなりかねません。ですから、祖父母を変えようとするのではなく、子どもへのフォローに意識を向けましょう。

「じぃじは『男なら泣くな』って言ってたけど、◯◯選手が金メダルを獲ったときに泣いていたのはかっこよかったよね」などと話せば、子どもは多様な考え方を知ることができます。

祖父母には、「男性向けの料理教室が人気」など、ニュースとして社会の変化を伝えていくと、徐々に価値観がアップデートされていくかもしれませんね。

“最適解”がないからこそ親子で考えていくことを大切に

内海﨑先生からメッセージ

ジェンダーに関する問題は、その人の価値観や、育ってきた環境が影響するので、「これが正解」という最適解はありません。だからこそ、親子ともいろいろな人の価値観に触れながら、ジェンダー平等社会に向けた行動を考えていくことが大切です。

ジェンダー観の土台が作られる幼児期、ぜひお子さんと折々で話してみてくださいね。

イラスト/後藤グミ

※この記事は、2022年10月発行の「ぎゅって11月号首都圏版」に掲載した記事を再編集したものです