「早く帰れてズルイ」という後輩の言葉を聞いてしまった、時短勤務のワーママ。今回は、職場の人間関係のメカニズムを知り、心を軽くするヒントを元自衛隊のメンタル教官の下園壮太さんに解説してもらいました。

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「ズルイ」と言われたけれど、実は…。

時短勤務で毎日午後5時で退社しているMさんがこんな話をしてくれました(本人の了解のもと紹介します)。

そう言って、Mさんはくやし涙を浮かべました。ところが、少し落ち着いてから、こうも言ったのです。

「でもね。実は、自分も昔そう思っていたのを思い出したんです。」とMさん。

「まだ結婚する前のことなのですが、同じ部署に時短勤務の先輩がいて夕方以降の対応は私がフォローしていた時期があったんです。口では言わなかったけど、“ズルイな”って、たしかに感じていました。

あー、どうしたら、お互いにスッキリした気持ちで働けるんでしょうね。」とMさんはため息。

このケースを、下園さんにひも解いてもらいました。

お話を聞いたのは

下園壮太さん(メンタル・レスキュー協会理事長)

1982年陸上自衛隊入隊。メンタルヘルス教官として、大事故や自殺問題、惨事対処など多くのカウンセリングを手がける。2015年定年退官し、現在はNPO法人メンタルレスキュー協会理事長。一般向け「感情ケアプログラム」の普及にも務めている。>公式ホームページ

職場は「人間関係の戦場」

下園さんによると

ズルイというのは、人間の本能なんです。

とのこと。「人間は、自分のエネルギーにとても敏感。なぜかというと、食べ物がろくに手に入らない原始時代、エネルギーが枯渇することは、イコール、死ぬこと。

何億年もの間、生き延びるためにエネルギーを確保することを、強烈に刷り込まれたのです。」

そんな人間にとって“働くこと”は、昔も今も“エネルギーを消耗すること”。

「働いてエネルギーを使ったら、自分はそのぶん、見返りをちゃんともらえているかが気になるし、期待もします。他人の取り分にも敏感になり、つい比較してしまう。

“ズルイ”とか嫉妬の感情は、このために生まれるのです。それは本能だから、現代のパソコンが並ぶオフィスでも変わりません。」

つまり、ちょっとショックな表現ですが、そもそも職場とは、お互いに“ズルイ”と思ってしまいがちな環境だということ。

「それが組織の一つの真実なのです。私は“職場は人間関係の戦場”とよく表現しています」と下園さんはキッパリ。

「ズルイという感情は自然のもの。“人とはそんなもの”と知ることで、後輩や自分を、必要以上に責めてしまう気持ちをまずはやわらげてみましょう。」

でも、ズルイと言われたショック自体は大きいもの。そうでなくても、人間関係の戦場”では、ワーママをはじめ、多くの人が、いろんなショックをうけてしまいますよね。

そんなときでも、なんとか軽やかに、日常を過ごすためのコツを教えてもらいました。

ショックな場面に「DNA呼吸法」

あの人にこんなこと言われた!ミスしてしまった!など、職場ではショックな場面が絶えず発生します。

「そんなときの緊急対処として、呼吸法はかなり有効です。自分にあったやり方でいいのですが、オススメは、オリジナルの“DNA呼吸法”です。」

DNA呼吸法のやり方

  1. 以下のような手順で呼吸しやすい姿勢を作ります
  2. イスに腰を掛け、上半身を骨盤から前に倒し、背筋を伸ばしながら元の位置に戻す。

    →上体を左右に揺する

    →肩の上下がしやすいところに頭の位置をおさめる(のせる)

    →丹田(おへその下あたり)に重みを感じ、背骨以外は脱力して座っている状態を作る

  3. 「大丈夫(D)」と言いながら、ため息をつくように胸の息を吐く(1秒)
  4. 「何とかなる(N)」と言いながら、下腹を凹ませ、胸をあげて息を吐く(6秒)
  5. 「明らかにしよう、よく見よう(A)」と言いながら、吐ききったところで、お尻の穴を締める(1秒)
  6. 反動で吸って、息継ぎの呼吸を1、2回
  7. もう一度軽く吸って2~5を1セットとして、5回くらい行う

ポイント

  • わざと難しいステップになっている呼吸法です。言葉の意味はあまり意識せずに呪文のように言ってみましょう
  • 時間、回数は目安。自分のやりたいようにやって良いです
  • 慣れるまで、40回くらいは練習してみてみてください

「ネガティブな感情は、心も体もセットで緊張させます。呼吸法は、まず体にアプローチして、そのセットを分解、ゆるめてくれるのです。感情の応急処置として使えるようにしておくと便利ですよ」と下園先生。

質の良い睡眠、休養をよくとる

また、心身の疲労が深いと、そのぶん感情は大きく揺れます。質の良い睡眠と休養をきちんととり、常に自分の疲労ケアを心がけること。職場で同じ出来事があっても、感じ方が大きく変わってきます。

小さな子どもがいて時短で働く女性の疲労は相当なもの。長く健康で働くためにも、疲労のセルフケアはくれぐれも心がけてほしいですね。

ただし、最後に注意したいことを下園さんは指摘しています。

「特定メンバーへの批判や攻撃が止まらない場合、個人の問題ではなくて、そもそもチーム全体、職場全体が疲労して正常に機能していない場合もあります。

もし今いる職場がそのような状況に陥っている場合は、人事異動や転職などの現実対処をするしかない。信頼できる社外の人に相談するなどして、状況をよく見極めてほしいと思います。」

この記事を書いたライター

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向山奈央子さん

フリーライター&エディター。仕事で走り回りすぎて、気付いたら一人娘は中学生に育っていた! ライフワークで「感情ケアプログラム」指導者コース修了。忙しいワーママを見ると、つい(聞かれてもいない)アドバイスをしてしまう。

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