“災害レベル”といわれた今年の夏の暑さ。忘れたころにやってくる、メンタル面への悪影響を、元自衛隊メンタル教官の下園さんは警戒中。乗り切るためのポイントを聞きます。

お話を聞いたのは

下園壮太さん(メンタル・レスキュー協会理事長)

1982年陸上自衛隊入隊。メンタルヘルス教官として、大事故や自殺問題、惨事対処など多くのカウンセリングを手がける。2015年定年退官し、現在はNPO法人メンタルレスキュー協会理事長。一般向け「感情ケアプログラム」の普及にも務めている。>公式ホームページ

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根深い「猛暑疲れ」

「ここ数年、秋に入って涼しくなってから、ガクンと心身の調子を崩してしまうクライアントが増えているんです。」と下園さん。

その理由の一つとして、下園さんは“夏の暑さの疲れ”がある、と考えています。

もちろん、昔も夏は暑かったのですが、ここ数年は異常ともいえる暑さと、天候不順が続いています。そして、これまでなかったのが、どこでもエアコンが効いている現代の環境。

「異常な暑さと、エアコンでの急激なクールダウン。これまで人間が経験してこなかった温度差が、私たちの体に、相当な負担をかけているのです。」

もともと人間は定温動物。暑ければ汗をかき、寒ければ震えることで、体温を一定に保とうとします。この体内システムは自動的にエネルギーを使います。

その意味で、最近の夏の温度差は、私たちのエネルギーをいつのまにか消耗。秋口にその疲れが出て“うつっぽい”症状を訴える人が増えていると、下園さんは指摘します。

「私は元気」と油断しないで

そもそも「うつ状態」とは、エネルギーが枯渇した状態。主な原因が、心身の「蓄積疲労」です。

疲労がたまると「うつ状態」に

そのメカニズムは次の通りです。

人は疲れても、必要な作業に集中していると、疲労を感じにくくなる

感じなくても、過剰な活動をすれば、疲労は蓄積してくる

疲れがたまってくると、同じことでも「大きな疲れ」として蓄積されていく

疲労は深まっているのに、それを感じないよう、さらに必死に動いてしまう

とうとうあるとき、疲労が限界に達してエネルギーが枯渇。心も体もフリーズしてしまう(=うつ状態)

「私は元気だから大丈夫、と思っている人も多いでしょう。でも、ワーキングママのみなさんは、子育てがあり、仕事があり、家事があり、慢性的な疲労をためている人が多いのです。

すでに疲れを感じにくくなっている可能性が高いんですよ」と下園さん。

「猛暑疲れ」がただちにメンタル不調の原因になるわけではありません。でも、もともと疲労が重なっているところに、新しい疲労の要素が加わっているのが現状。

下園さんは、「ぜひこの夏の猛暑も、疲労としてカウントしてほしい。」と強調します。

“プチうつ”プロの乗り切り方

現在「うつ状態」とまではいわないまでも、すでに、なんとなく不調を感じている人はいませんか。

例えば

  • なんとなく落ち込む
  • イライラする
  • なんとなくだるい
  • やる気が出ない

など。

いわゆる“うつっぽい状態”、“プチうつ”を解消するためには、休養し、エネルギーを充電することが一番です。

具体的にはどのようにすればいいのでしょうか。

下園さんに、自衛隊員に対して指導してきた「ストレスコントロールの基本」を教えてもらいました。

自衛隊式ストレスコントロールの基本

できれば3日続けて休む

現場のストレスでうつになった人に行う処置は

3日間現場から外して、休養を取らせる

1週間がベターですが、まずは土日などをやりくりして連続3日間。それも無理ならせめて2日間休めるようにします。

睡眠を十分にとる

「よく眠れているか」は、メンタルの健康のバロメーター。もし不眠が1週間続いたら要注意。

2週間続いたらドクターストップ、精神科や心療内科を受診するレベルだと覚えておきましょう。就寝前の飲酒はNGです。

温かい食事をとる

眠りを確保したら、次は温かくておいしい(と感じる)食事を。といっても、疲れが取れない間は、料理や準備に決して手間をかけてはいけません!

ゆったりとお風呂に入る

体を温めることで血液の循環が良くなり、心理的にもゆったり。長風呂や熱すぎる温度は体力を消耗するので注意して。

これまでのストレス解消法をやめてみる

疲れている人ほど、「ストレスを解消して早くスッキリしたい」という気持ちが強いあまりに、休まずに何かをしてしまう傾向があります。

うつっぽいときは、とにかく「寝る以外はやめる」覚悟で、睡眠だけをとりましょう。

とはいえ、特に子育ては“待ったなし”。睡眠、食事、お風呂ともにままならないことも多いのですが…。

「たしかに、なかなか思い通りには休めないとは思います。でも、本当にうつ状態になると、回復までに長い時間がかかってしまい、結局本人も家族もつらい思いをしてしまいます。

家族は、お母さんの健康あってこそ。“うつっぽい”時点で、家族にも協力をしてもらって、ぜひ休む勇気と工夫をお願いしたいのです。」

涼しくなって一息つける秋。できるところから、心と体のお休みの時間をつくって、自分自身をいたわってあげられたらいいですね。

この記事を書いたライター

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向山奈央子さん

フリーライター&エディター。仕事で走り回りすぎて、気付いたら一人娘は中学生に育っていた! ライフワークで「感情ケアプログラム」指導者コース修了。忙しいワーママを見ると、つい(聞かれてもいない)アドバイスをしてしまう。

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