毎日の生活の中で、ふと「不安」でたまらなくなること、ありませんか。できれば感じないで済ませたいのだけれど…。「不安」の感情と上手に付き合うには?メンタルケアのプロに聞いてみました。

お話を聞いたのは

下園壮太さん(メンタル・レスキュー協会理事長)

1982年陸上自衛隊入隊。メンタルヘルス教官として、大事故や自殺問題、惨事対処など多くのカウンセリングを手がける。2015年定年退官し、現在はNPO法人メンタルレスキュー協会理事長。一般向け「感情ケアプログラム」の普及にも務めている。>公式ホームページ

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「不安がり」もトレーニング次第

あなたには、今、不安なことはありますか?

  • 子どもの様子がおかしい
  • 忙しい部署に異動になってしまった
  • 健診に引っかかった
  • あのママ友に嫌われたかも
  • 地震のことをつい考えてしまう

大きなことでも、小さなことでも、不安や心配におちいることは誰にでもあること。

すぐに解決できたら問題はありません。でも、不安が続くと、眠れなくなったり、本来の仕事が手につかなくなったり…。

同じことでも他の人があまり悩んでいないと、“不安がり”の自分にダメ出しをしたりと、あまりうれしくはない感情ですよね。

下園さんは、

何に不安を感じるかというのは、その人の性格や、そのときの状況によって全く違うもの。

「世の中“ポジティブな方がいい”という風潮もありますが、人と比較して落ち込む必要は全然ないんですよ。」と話します。

そして、「人間である以上、不安をゼロすることはできません。ただ、不安には“コツ”があります。そのコツを知っておけば、不安がりさんも、適当なところで反応できるようにトレーニングすることが可能ですよ。」

では、さっそくそのコツを伝授してもらいます。

不安には“意味”がある

「まずは、不安の“意味”を知りましょう。」と下園さん。「先ほど、不安の感情をゼロにはできないと言いました。それは“不安”が人間にとって必要なものだからなんです。」

たとえば、子どもの様子がいつもと違うと不安になったら、どうしますか。「どうしたのだろう」「何かあったかな」と、普段より注意深く子どもと接することでしょう。

異動が不安なら、人に相談したり、新しい部署の情報を集め始めます。健診結果が思わしくなければ、日ごろの不摂生を改める人もいるでしょう。

「不安」は危険を予測する力

私たちは不安をきっかけに“これから起こりそうなこと”をあれこれ考え始めるのです。つまり、「不安」とは「将来の危険を予測する力」。

「私はいつも原始人の例で話しますが、原始人は不安の感情があるから、猛獣がいそうな場所には近づかないようにしたり、かつて仲間が食べて命を落としたキノコを食べずにいたりすることができた。“不安”が、人類を危険から守ってきたのですね。」

つらいのはなぜ?

ところが、今は、猛獣に襲われることもないし、コンビニで夜中でも食べ物が手に入る時代。私たちに備わった“不安”は意味があっても、かなり過剰に発動します。

「そうなんです。“不安”がつらいのは、それが過剰だから。同じ感情でも“怒り”は瞬発的ですが、“不安”はダラダラ続きます。

また頭の中ですぐに最悪のイメージをしてしまう。例えば、子どもの様子がおかしいとなったら、そこから病気、イジメ、不登校など、発想が飛んでしまうのです。」

不安は、感じる“時間”と“シミュレーション”が行きすぎるからつらい。そこで、不安でたまらないときは、まず“時間”を減らせばいい、と下園さんは言います。

不安を感じたら、時間を決めて、それについて集中して考える。それが一番のコツです。

ベストな方法は、他の人とその不安について話し合いながら徹底的に考えること。ただ、その相手を見つけるのは難しい場合もあるので、一人で取り組める方法を、次に紹介します。

特効ケアは「とにかく書く!」

不安対処のコツは「集中して悩むこと」。やり方は複数ありますが、特効ケアは「書く」です。

今回はその一つ、「不安分析図」を紹介します。

不安分析図メソッド

  1. 書きまくる
  2. 1枚の紙とペンを用意します。「今一番不安になっていること」を、紙に、まずは「言葉」にして書いてみます。単語でも文章でも、どちらでもオッケーです。

    書いたら、次は、それがどんな形か、どんな感じなのか、線やイラストも描き足していきます。ギザギザ、モヤモヤ、真っ黒、などなど。色ペンを使ってもオッケーです。

    例:不安分析図

    次に、その「不安」から思い出された、関連する出来事や人間関係、感情なども、どんどん書き足していきます。

    また関連はなくても、今、気になっていることも書き出していきましょう。最初の不安に対して、大きいなら大きく、小さく感じるなら小さめに。

    どんなにささいなことでも、また、直接関係がないかなと思うことも、「今感じていること」は全て書き出し、描いていきます。だれにも見せないので、遠慮はいりません! ネガティブな気持ちも全て吐き出してしまいます。

    「これ以上の不安やイライラのネタはない」「書き切った」と思ったら、ペンを置いてください。

  3. 出来上がった図を眺めてみる
  4. まずは、全体的にその図を眺めてみましょう。何か感じることはありますか?「今一番感じている不安」について、気づきはありましたか?特にありませんか?

    最初に書いた「一番の不安」と、後から書き足したことに関連はありますか?ありませんか?

  5. 「行動」を考える
  6. 次に、紙に書き出された自分の不安に対して、何か行動できることはないか、考えてみます。今できることは何か。また、逆にできないことは何か。行動プランと予定を立ててみるのです。

以上が、「不安分析図」のメソッドです。

不安の特性

  • 「書く」ことで、感情のスピードをスローダウンできる
  • 行動の予定が立つと落ち着く

という面があります。

「例えば、受験生は不安なものですが、受験全体を不安がっていても合格には近づかない。問題集を解いたり、模試を受けたりして、行動により具体的な課題が見えてくると、次の一手がわかる。そうしているうちに、受験そのものへの不安は和らぐのです。」

「不安分析図」は、特別なスキルも必要もなく、一人でできるので、覚えておくととても便利です。

ポイントは、

いきなり大きな不安から取りかかるのではなく、小さな不安から始めること。

また、実際の行動も、差し当たってできそうなところからスタートを。さらに、「あまりにも落ち込んでいるときや疲れているときはやめた方がいい。そんなときは迷わず休養してください。」とのこと。

不安は行動のパワーになります。毎日の生活の中、「不安」を感じても大丈夫。自信をもって対処していきましょう。

この記事を書いたライター

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向山奈央子さん

フリーライター&エディター。仕事で走り回りすぎて、気付いたら一人娘は中学生に育っていた! ライフワークで「感情ケアプログラム」指導者コース修了。忙しいワーママを見ると、つい(聞かれてもいない)アドバイスをしてしまう。

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