/ 2018.11.14

秋も深まると、毎年流行するインフルエンザ。とくに子どもは、感染すると重症化のリスクも高く「かからないように心がける」ことが大切です。気になる予防とかかってしまったときの対策をインフルエンザが専門の小児科医・廣津伸夫先生にうかがいました。

お話を聞いたのは

廣津伸夫先生

廣津医院院長。日本感染症学会インフルエンザ委員。専門:感染症、インフルエンザ。大学病院で血液内科を専攻後、ファミリードクターを目指し、小児科で学びその後開業。インフルエンザの研究にて神奈川県医師会学術功労者表彰(2004年)、インフルエンザの研究にて日本臨床内科医会会長賞(2010年)。著書に『インフルエンザの最新知識Q&A2012』、『よくわかるインフルエンザのすべて』(いずれも医薬ジャーナル社)など多数。

index目次

今年のインフルエンザ流行の傾向は?

すでに学級閉鎖のニュースも

今年は、9月初めに茨城県の小学校で今シーズン初のインフルエンザによる学級閉鎖がニュースになるなど、まだ暑い時期のインフルエンザの集団発生に不安を感じたママも多いのではないでしょうか。

日本では、インフルエンザは冬の空気が乾燥した時期の感染症というイメージがありますが、近年のグローバル化に伴い、日本でのインフルエンザの流行シーズンも変化の兆しがあるようです。

「社会のグローバル化は、感染症にも影響を与えています。海外でインフルエンザに感染して、それを日本に持ち込むことは近年、よくあることです。

たとえば私のクリニックでも、一昨年の9月に最初のインフルエンザで来院した患者さんは、日本在住のベトナムの方でした。本国に帰省して感染し、日本に戻ってきて発病したのです。

東南アジアは通年、インフルエンザが一定数あるため、日本人旅行者が旅行先で感染して帰国するケースもあります。ですから旅行先で感染した子どもが新学期に登校して、クラスに集団発生させてしまう、という可能性もないわけではありません。

しかし、こうしたケースは散発的なもので、そのまま日本で9月に大流行するということはありませんので、過度な心配は必要ありません」

流行時期とインフルエンザの種類は

12~3月にかけてが要注意

日本ではインフルエンザは例年、12月に流行り始めて、人の動きが少なくなるお正月にいったん沈静化。その後、お正月明けから再び流行り始めて、2月にピークを迎えます。そして3月の終わりまでが流行期で、その後4~5月、6月頃まで散発的にみられます。

インフルエンザの流行はA型とB型

また、インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型と3つありますが、このうち季節性インフルエンザとして流行するのはA型とB型です

「今年に流行する型は、まだよくわかりませんが、現時点で神奈川県川崎市で出ているのはインフルエンザA型のH1N1とH3N2とインフルエンザB型です。数としては、今のところH1N1の方が多くみられます。

H1N1は、2009年に流行った新型インフルエンザで、そのまま季節性インフルエンザとなって残ったものです。

小児では、肺炎を起こすこともある重症化のリスクが高いウイルスですので、注意が必要です」

A型とB型の違いは?

  • A型:重症化しやすい傾向がある
  • B型:A型より軽症だが薬が効きにくく、子どもだとグズグズが長引く傾向がある

予防接種は意味ない?受けていてもかかるの?

「予防接種を受けていても、インフルエンザにかかった」「予防接種って、そもそも必要あるの?」といった話を聞くことがあります。

このため、子どもに予防接種を受けさせるかどうか迷ってしまうママも少なくありません。実はインフルエンザワクチンは「接種すればインフルエンザにかからない」というものではありません。

重症化を防ぐためにも接種を

しかし、インフルエンザの症状を抑える効果や重症化や合併症の予防には、一定の効果があるとされています。

「日本で広く用いられている予防接種は、ヒトの間で流行っているA型のH1N1とH3N2、そしてB型の2種類を入れた4価ワクチンです。しかしウイルスは毎年少しずつ変化していて、ワクチンの効果が出る年と出にくい年があるのです。それでも“まったく効かない”ということはありません。

特に子どもの場合は、重症化や合併症、脳症のリスクを下げる意味でも、予防接種はしっかりと受けておいたほうがいいでしょう」

予防接種を受けるのに、効果的な時期

インフルエンザの流行は12月から3月と長く、いつ頃予防接種を打てばいいのか悩んでしまいます。

特に13歳未満は2回接種が必要なので、急な体調の変化の可能性も考慮して早めにワクチン接種の予定を立てたいもの。また、流行のピークに合わせて最も効果的にワクチンが効く予防接種の時期はあるのでしょうか。

「インフルエンザの予防接種の効果持続期間は5カ月程度といわれています。4月頃まで散発的に感染がみられるので、遅くとも10月終わりまでに第1回目を接種するといいでしょう。

第1回目と第2回目の接種の間隔は、2~4週間を目安にしてください。第2回目を11月末までに接種すれば、12月半ばには効果が表れます。

免疫の少ない子どもは1回の接種では抗体が上がらず、ワクチンの効果が出にくいので、たとえ風邪などで2回目の接種のタイミングを逃してしまった場合でも、遅すぎることはないのでぜひ接種してください」

インフルエンザの予防接種

  • 回数
    • 6カ月~13歳未満:2回
    • 13歳以上:1回
  • 接種時期の目安
    • 第1回目:10月半ば~11月終わり
    • 第2回目:11月半ば~11月終わり
  • 効果の持続期間
    • 約5カ月
  • 接種料金の目安
    • 3000円程度~(助成金がある自治体もある)

予防接種の副反応は?

気になる副反応は、接種した場所の赤み、腫れ、痛みや、全身反応として発熱、倦怠感、頭痛などがみられることがありますが、通常2~3日でなくなります。

接種後に気を付けることは

「その他の副反応については、ほとんどの場合ないので気にしなくて大丈夫です。接種後は、激しい運動は避けたほうがいいですが、接種後の帰り道に少し公園で遊ぶくらいは問題ありません。

お風呂も入って大丈夫ですので、普段通りに過ごしてください。ただし、発熱した場合には他の疾患の可能性もあるので、早めの受診をおすすめします」

予防接種でインフルエンザにり患することもある?

日本のインフルエンザ予防接種は、病原体となるウイルスの感染能力を失わせたものを原材料としてつくられた不活化ワクチンです。ですから、予防接種をしたことによって、インフルエンザを発症することはありません。

妊婦や卵アレルギーでも受けられる?

妊娠していても受けていいの?

「インフルエンザワクチンは病原性をなくした不活化ワクチンなので、胎児に影響があるとは考えられていません。妊娠中も予防接種は受けられますので、感染のリスクを避ける意味でも、積極的に接種をおすすめしています」

卵アレルギーは受けられない?

また、インフルエンザワクチンの多くは鶏卵で培養するため、卵由来のたんぱく質が微量に含まれています。このため、「卵アレルギーの場合は、予防接種は受けられない」といわれることがありました。

しかし、米国アレルギー・喘息・免疫学会(ACAAI)が昨年、「卵アレルギーのある人でもインフルエンザワクチンの接種は安全」と発表するなど、卵アレルギーについては、ほとんど気にしなくて大丈夫といわれるようになりました。

「多くの場合、卵アレルギーは問題ないと考えていいでしょう。アレルギーが気になる場合は、万が一に備えて医師に確認しておきましょう」

接種時に37.5度以上の発熱がある場合や、咳や鼻水の出始めのときはこれから発熱する可能性があるので、医師にその旨を伝えてください。

インフルエンザの潜伏期間は?

インフルエンザは感染後、1~3日で発症します。突然の38度以上の高熱、関節痛や頭痛、倦怠感などの全身症状が強く現れたらインフルエンザが疑われます。早めに医療機関を受診してアドバイスを受けましょう。

12時間が過ぎないと陽性反応は出ないって本当?

いまは多くの病院で「迅速診断キット」を用いてインフルエンザの検査をしますが、場所によっては発症後「12時間以上過ぎないと検査できない」といわれることがあります。夕方に発症した場合は、熱が高い子どもをそのまま一晩過ごさせることになり、とても心配です。

「夕方熱が出たとしても、けいれんや嘔吐(おうと)がなければ、朝まで経過を見守っていればいいでしょう。迅速診断キットを正しく使えば、発症6時間以内でも陽性率90%で確認できます。

インフルエンザでは、本人を治療ことはもちろんですが、公衆衛生の視点からも他人に感染させないための注意が欠かせません。

私のデータでは、発症24時間以内に治療を開始した場合の家族内感染率は6.9%。48時間以上を超えると11.1%という結果が出ています。

早期に治療を開始することは、重症化を防ぐのみならず、家族や周囲、さらには地域への感染拡大防止にも役立つことを覚えておいてほしいですね」

インフルエンザ迅速判断キット

「スティックを顔の正面から鼻にまっすぐ差し込み、咽喉頭粘膜の分泌物をとります。発症後間もない頃は鼻汁が少ないこともあり、時間をかけてていねいに検査をすることが大切です。

コツを押さえた医師がやれば、違和感はあるかもしれませんが強い痛みを感じることはありません。鼻汁を吸引採取しても検査はできます」と廣津先生。

インフルエンザと風邪の違い

  風邪 インフルエンザ
発熱 ないか もしくは微熱 高い 38度以上
おもな症状 喉の痛み、咳、鼻水など 風邪の症状に加え、高熱、関節痛、全身倦怠感など全身症状がある
発症 ゆっくり 急激
合併症 ほとんどない 気管支炎、肺炎、小児では中耳炎、熱性けいれんなど

子どもの異常行動はなぜ起こる?

インフルエンザ発症時の異常行動で、急に走り出す、飛び降りるといったニュースを耳にすることがあります。

平成19年にタミフルを服用した10代の子どもが転落して亡くなったという報告から、インフルエンザの治療薬を飲むのをためらっている人もいるかもしれません。

「理由はわからないのですが、とにかくインフルエンザでは異常行動が起きやすい事実があります。私の観察では、いつもと違った不思議な行動をとる子どもは13%程度に出現します。

とくに発症から2日間は注意が必要ですので、発熱している間は大人の目が届く場所に寝かせ、一人にしないようにしてください」

異常行動による事故予防のために

  • 治療開始から少なくとも2日間は、子どもを一人にしない
  • 玄関やすべての部屋の施錠を確実に行う(内鍵、補助鍵がある場合はその活用も含む)
  • ベランダに面していない部屋で寝かせる
  • 窓に格子がある場合は、格子のある部屋で寝かせる
  • 一戸建ての場合は上記に加え、できる限り1階で寝かせる
厚生労働省 インフルエンザQ&A より抜粋

予防のために日常生活でできること

年齢や体調、その年に流行するウイルスのタイプによって、予防接種の効果が左右されてしまうインフルエンザ。完全に「かからないように」することは難しそうですが、日常生活のなかで予防のためにできることはあるのでしょうか。

「インフルエンザは飛沫感染で拡大します。不織布のマスクは、感染防止はもちろんですが、予防にも非常に効果的です。

高価な高機能なものでなくても、100均のマスクで十分なんですよ。また、乾燥によって荒れた喉はウイルスが感染しやすくなるので、加湿器などを利用して喉が潤うようにしておくと、感染を防ぐ効果が期待できます」

予防のための5つの基本ポイント

  1. 不織布のマスクを着用する
  2. 適度な湿度(50~60%)で喉の健康を保つ
  3. 人ごみを避ける
  4. 外出後の手洗い、うがいは、一般的な感染症予防にも役立つ
  5. 規則正しい生活で免疫力UP

保育園や学校、職場などで集団生活をしていると、なかなか防ぐことも難しくなってしまいますが、できることを心がけて流行シーズンを乗り切ることができると良いですね。

この記事を書いたライター

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毛利マスミさん

フリーライター&エディター。娘が幼児の頃「勉強するなら今しかない」と思い立ち、社会人学生となって臨床心理学を修める。さらに赤ちゃん好きが高じて、保育士免許も取得。中学生となった娘に「孫育てが楽しみ」と言っては、煙たがられています。

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