朝晩の限られた時間の中で、子どもに「早く!」と言ってしまいがちな毎日。他の子と比べて「早く〇〇できるようになってほしい」と願うこともしばしば…。親はなぜ、子どもに“早く”を求めてしまうのでしょうか。白梅学園大学の増田先生にお話を聞きました。

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お話を聞いたのは

増田修治先生

白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。埼玉大学教育学部卒業後、小学校教諭として28年間勤務。小学校教諭を目指す学生の指導と並行して、東京都板橋区の保育園や府中市の市立保育園と共同で感覚統合・体幹・非認知能力と子どもの発達の関係性について研究。著書は「小1プロブレム対策のための活動ハンドブック 増田メソッド」(日本標準)他多数

親はなぜ、急かしてしまうの?

一つは親たちがとても忙しくなってきていることがいえます。少し前まで東京~九州間は宿泊を伴う出張でしたが、今は日帰りで翌日出勤ということもあるでしょう。社会全体がスピードアップしていて、余裕がなくなってきているんです。

また、AI(人工知能)の登場でさらに“速さ”が求められるようになってきました。すさまじいスピードでデータを集め、分析される時代。

そのような現象を目の当たりにし、“この速いスピードで生きて行かなければいけない”という潜在意識が親に生まれ、子どもも早く動かなくてはいけないんじゃないか、と思ってしまうのです。

さらに、今は住宅情報誌が「教育環境」をテーマにする時代。居住環境で選ばれてきた家選びが、“人より進んだ教育を受けられるか”で選ばれるのです。そういう人々は一部ですが、とても影響力があります。

先進の教育を受けている子を見て、親たちが焦るのは無理もありません。社会全体が子どもたちに早熟を求めるようになっているのです。

わが子の成長を他人と比べて焦ってしまうことはありますか?

比べてしまうのはどんなことですか?(※複数回答)

誰と比べることが多いですか?

“早く”をやめて、伸びる子どもの力

社会的に“早熟”を求める状況はあるものの、これからの時代に活躍できるのは幼少期に“早くできる子”ではありません。むしろ、“早く”と急かして奪ってしまった時間の中で、この社会で生き残るための力が育まれるのです。

例えばお手伝い。私が小学校教諭のとき、1カ月に1回、自分で料理をしてみましょう、という宿題を出しました。料理には「材料を量る」「手順」などがあり、“見通す力”が身に付きます。算数で計算はできるようになりますが、“見通す力”は身に付きません。

こういった生活の中にこそ、子どもの成長の種はあり、それが学力の向上にもつながるのです。

夏休み明けには「夏休みにできるようになったこと」という作文を書いてもらいました。「泳げるようになった」「雨戸が閉められるようになった」「お風呂のふたを1人で立てられるようになった」。

そんなささいなことでもいいんです。「できるようになった」という経験は、自己肯定感や非認知能力を育てていきます。

頑張る芽を摘まず、見守る時間を大切に

しかし、現代は行動や成長を急ぐことで、経験する時間が奪われてしまいがちです。そのことで、失ってしまう力、身に付けられない力があるということを知ってほしいと思います。

思い起こしてみてください。何回も転び、時間をかけて見守り、わが子が初めて歩けるようになった日のことを。自分でスプーンを持ち、ご飯を食べ始めた日のことを。

親が忘れてしまった出来事も含め、そういった経験の一つ一つの集積で、子どもたちは成長していくのです。子どもたちには本来頑張る力があります。急かさず見守り、できるようになったことを見逃さず、褒めてあげてください。

この先、小学生になり、勉強についていけるかという心配もあると思います。しかし、勉強だけを独立して何とかしようと思ってはいけません。生活能力がないところに学力を積んでも、結局最後は崩れてしまいます。豊かな生活能力が土台にあってこそ、豊かな学力が築かれるのです。

※この記事は、2019年10月発行の「ぎゅって首都圏版」に掲載した記事を再編集したものです