2児のパパ目線、そして新聞記者の目線で子育てや世の中の気になることを読み解く、高橋天地さんの「新聞記者パパのニュースな子育て」。今回のテーマは映画「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」から「子どもの自立」に対する親の思いを考えてみました。

執筆

高橋天地さん

平成7年、慶應義塾大文学部独文学専攻を卒業後、産経新聞社へ入社。水戸支局、整理部、多摩支局、運動部などを経て、SANKEI EXPRESSで9年間映画取材に従事した後、文化部で生活班を担当。育児、ファッション、介護、医療、食事、マネーの取材に精力を注ぐ。平成29年10月1日より1年6カ月ぶりに映画担当となる。

スター・ウォーズ/最後のジェダイ

「スター・ウォーズ」シリーズの第8弾「最後のジェダイ」(ライアン・ジョンソン監督)が2017年12月15日(金)、日本で全国公開された。

同シリーズを貫くテーマは「親子の絆」であり、ジョージ・ルーカス(73)をはじめ、歴代の監督は“親と子どもはわかり合えるのか”を問いかけている。

©2017 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

今作の中心人物、ルーク・スカイウォーカーを演じたマーク・ハミル(66)の考えを踏まえて、4歳と1歳に成長した、わが家の小さなドロイド「BB-8」2機との父娘関係のあり方に思いをはせた。

まずは「スター・ウォーズ」について

ルークは「ジェダイ」と呼ばれる伝説の騎士だ。遠い昔、はるか彼方の銀河系にある民主主義国家「銀河共和国」で治安維持を担当し、穏やかでプラスの感情から生まれる「フォース」と呼ばれる特殊な超能力を持っている。

ちなみに父親はダース・ベーダー(元アナキン・スカイウォーカー)。憎しみなど負の感情から生まれるフォースを駆使し、銀河共和国を廃した全体主義国家「銀河帝国」の大幹部として、銀河系を悪の世界へと塗り替えていった人物だ。

一連のシリーズは、銀河系の平和をめぐって繰り広げられる善と悪との戦いが描かれている。最新作「最後のジェダイ」は、前作「フォースの覚醒」(2015年、J・J・エイブラムス監督)の続きである。

©2017 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

マーク・ハミルが語る「最後のジェダイ」

「これがルーク? 脚本を読んで本当に驚いたよ。」と、ハミルは「最後のジェダイ」が今まで以上に衝撃的な内容であることを強調した。脚本を読んだハミルが愕然としたのは、ジェダイを廃業してはるか遠い星に引きこもり、心身ともに疲れ果て、すっかり年老いてしまったルークの姿だった。

マーク・ハミル(66)産経新聞・寺河内美奈撮影

「映画の予告編で、ルークが“ジェダイは滅びる”と言うんだ。あんなに楽観的だった男にこんなセリフを言わせるなんて、本当に驚いたよ。若い頃のルークは、人生に対して大いに希望を持ち、積極的な生き方をしてきたからね。」

背景に少々言及すれば、ルークを変えてしまった原因こそが、実は前作「フォースの覚醒」と今作「最後のジェダイ」の物語へつながることになる。レイア将軍を母に持ち、祖父ダース・ベーダーを師と仰ぐカイロ・レン(アダム・ドライバー)と、叔父にあたるルークとの関係に注目したい。

親子関係の崩壊から始まった「スター・ウォーズ」

さて、シリーズを貫くテーマのひとつが「家族愛」についてだ。ハミル自身は家族愛などまやかしにすぎない、と否定的な立場を取る。

個人的な見解だけれど、一般家庭で大人に成長した子どもとその親が、何もかもわかり合える友好的な関係でいられるなんてあり得ないんじゃないか?

それは避けられないことじゃないかな。

ルーク、レイア将軍、夫のハン・ソロ(ハリソン・フォード)、カイロ・レン、ダース・ベーダー、レイ…。シリーズを彩った主要な登場人物たちの親子関係については、「物語の最初から親子関係が崩壊しているからこそ、物語が面白くなった。」とも指摘した。

マーク・ハミル(66)産経新聞・寺河内美奈撮影

もっとも、「彼らが仲良し家族だったら何の問題も葛藤も生まれないし、ドラマ自体が成立しないだろう。」とハミル。今シリーズの主人公、レイの人生の前にまだまだ大きな荒波が押し寄せることを示唆した。

わが家の「BB-8」にイヤイヤ期到来

           
「遠い昔、遥か彼方の銀河系」から時空をワープ。ささやかなわが家のリビングに目を移すと、コロコロと元気いっぱい動き回る「BB-8」2機と親との間でも、すでにちょっとした小競り合いは朝から晩まで絶え間なく発生している。

4歳の長女は何事にも自分なりの論理や流儀ができつつあるようで、少しでもそれが外れると、突然すねて取り付く島がなくなる。

1歳半の次女も、どう考えてもまだ1人での着替えは無理なのに、ズボンに腕を通し、シャツを履き、がんじがらめになりながら、「じぶん!じぶん!!」とチャレンジ。

サポートしようと、親が少しでも手を出そうものなら、次女は大の字に寝転んで断固拒否。なるほど、これは懐かしの「イヤイヤ期」到来か。

必死にズボンを「履こう」とする次女

「ぎゅって」主催のセミナーで妻が仕入れてきた話によると、最近注目を集めている「アドラー式子育て」において、親が判断の基軸とするべきは

それが子の自立に資するか

ただひとつだという。

こうした「レジスタンス」は喜ばしいことなのかもしれないが、新年は年男となる戌年の父とすれば、たまの休みにほんの数時間、留守を任されて娘たちを追い回すだけでも、エネルギーを消耗することこの上ない話だ。

今後は、習い事、学校の進路、就職、夫選びなど人生の大きな選択にあたり、親子間の意見対立がますます増えていくだろうし、娘たちは今よりもずっと強烈かつ的確にこちらの痛いところをつき、対抗できるようになるのだろう。
              

融通の利かない頑固な父親

かくいう自分も、就職をめぐる親子の静かな対立を経験した。昨年10月に79歳で亡くなった父は実直な地方公務員。

父の職務に絡んで贈賄をもくろみ、何とか便宜を図ってもらおうと、手を変え、品を変え、自宅へ心付けを持ってくる利害関係者たちに対しては、けんもほろろな応対で追っ払い、留守中無理に押しつけられたネギなどの生鮮野菜も即座にリヤカーに乗せて、送り主に返却にいくことさえあった。

利害関係者たちに「まるで融通の利かない男だ。」と陰口をたたかれるほどの堅物な男だった。

そんな父は「息子たちも公務員が一番だ。」と死ぬまで信じて疑わず、明日の予定さえ読めない新聞記者という職業にはなじめずにいたようだ。新聞記者の仕事といえば、切った張ったは日常茶飯事、夜討ち朝駆け、休日出勤も当たり前だ。

有名な映画監督にインタビューした私の署名記事を見ても、父が開口一番発した言葉は「本当にお前が一人で書いたのか?」。息子が自分の想像の及ばないことに精力を注ぎ、生業としている現実にもどこか受け入れにくいところがあったようだ。

結局、素直に息子の頑張りを喜んだり、面と向かってほめたりすることは、とうとう最期までなかった気がする。

2機の「BB-8」の親になった今

          
親となった自分はどうか。夫婦ともに英語、国語、世界史が得意な典型的な私立大文系型のわが家。娘たちの将来についても、何かしら執筆や映画、語学などに関係する仕事に就いている姿しかイメージできていない。

進路の選択が現実の問題になっていく中で、娘たちが理数系の学部への進学を希望したり、職人の道へと進もうとしたりした場合、自分も父のように、見知った業界、慣れている世界が一番安心なような気がして、無意識に誘導してしまうかもしれない。

しかし、そんな親の言葉や態度が娘たちにどう作用するかは、結局は娘たち自身が決めることだということも、自分の体験からまたよく分かってはいる。

将来、2人はどんな道にすすむのだろうか

  
良かれと思って注いだエネルギーを素直にそのまま吸収するのか、それとも鏡のようにはね返し、むしろまったく違う方向へ進むエネルギーへと変えるのか?子どもの反応は同じ親に育てられた姉妹であっても違うだろうし、誰にも分からない。

とはいえ、まったく風任せというわけにもいかない。もっとも身近で一緒に長い時間を過ごす親の存在や言動、思いが娘たちに特別な影響を与えることは間違いないだろうから。月並みだが、自分なりに良いと信じる関わり方で、娘たちを導き育てていくしかない。

娘たちが出した答えが「正解」なのか、あるいは「間違い」なのか?よほど人倫に反することでない限り、軽率に決められない。最後は娘たちを信じて見守るしかないという覚悟も必要だ、と最近は思う。

「BB-8」とともにあらんことを

父の死後、実家で遺品を整理していると、書斎に保管されていたお菓子の缶の中に、自分の署名記事のスクラップが数枚保存されていた。意外であり、うれしかった。母によれば、職場の同僚に私が初めて書いた署名記事を見せて喜んでいたという。

俺は選ばなかった道だけど、お前はこれでいい。

と、今になってようやく父が承認してくれたように感じた。

ルークとその父、ダース・ベーダーのような得難いフォースの使い手ですら、親子関係は自分の思うようにコントロールできない。まして、ニューフェース2機に人気を奪われ、電池が切れそうな「R2-D2」にできることは限られているのかもしれない。

でも、いずれ娘たちが成長し、遠く離れたところへ巣立ってしまった後も、選択に迷い立ちすくむ場面で「お前はそれでいいんだ。」と心の内側からふいに湧き起こるように、私は親としてテレパシーを送り続けたい。願わくば、フォースと共にあらんことを。