仕事に家事に育児に…目の回るような毎日の中で、人並みに配偶者への不満や怒りを募らせつつ、時々訪れる「結婚って…何?」という壮大なクエスチョン。そんなときに、思わず手に取った一冊「困難な結婚」。あなたはこのタイトルに何を感じますか?

タイトル買い!逆に、このタイトルにピンとこない人は読む必要ないかも?

今回、取り上げる1冊はこちら。

「困難な結婚」内田樹(アルテスパブリッシング)1620円

もし、相手の本棚にあったら、ドキッとするタイトルですね(笑)。正直、こんなに引きの強いタイトルも珍しいのではないでしょうか。

この本を買った当時、私は本当に結婚生活に困難を感じていまして。2歳差で下の子が生まれたばかりで、夫は仕事が忙しく、ほぼ週6ワンオペ育児で、夫婦の会話も少なく、怒りと寂しさばかりが募って、にっちもさっちもいかなかったときに表紙を見た瞬間、「ふっ」と楽になった1冊なんです。

うん、そうか、そうだよね。困難だよね、結婚。

著者の内田樹さんは、神戸女学院大学名誉教授で思想家、武道家。一女の父でもあり、一時はシングルファーザーとして、一人で娘さんを育てられた経験もある人です。知性の塊のような人なんですが、彼が説く「結婚とはこんなもの」がとにかく示唆に富んでいます。

購入から2年経ち、夫の転職により慢性的なワンオペが解消した今でも、折に触れて読み返す1冊です。金言満載の中身をほんの少し紹介しましょう。

結婚とは“幸せになるためにするもの”にあらず

「えっ、そうなの?なんて後ろ向きな…」と思う人もいるかもしれませんが、読んで納得。

結婚という制度は「幸福になるため」の仕掛けではなく、「リスクヘッジ」なんです。(中略)にべもない言い方をすれば、「一人で暮らすより、二人で暮らす方が生き延びられる確率が高い」から人は結婚するんです。発作的には「幸福になるための制度」ではなく「生存確率を高めるための制度」なんです。

私はここの部分、とても腑に落ちたんですけど、みなさんはどうでしょう。育児と同じで、私は結婚にどこか夢を見ている部分がありました。「少なくとも結婚前より幸福にならなければならない」「結婚・家庭=幸せであるべきもの」という思い込みがあったんです。

しかし、「どうやら現実はそうでもないぞ?」ということに気付いて、そのギャップに苦しんでいました。でも、内田先生は結婚を「今より不幸にならないようにするもの」と言います。

私の夫は、病気でしばらく働けない時期があったのですが、その間に私は仕事を始め、夫は家事育児をしてくれました。今は共働きですが私が病気になったとき、おそらく夫が収入を得ながら家庭のことをやって、支えてくれるのだと思います。

身も蓋もない言い方なのかもしれませんが、私たちは二人でいる方が生存確率も上がるし、おそらく子孫も無事生かすことができる確率が上がる。その時点でたぶん、この結婚は成功しているんですよね。

結婚は足かせか?

出産してから仕事を始めて、その時間のなさに驚きました。自由時間はもちろん、仕事のための必要最低限な自己研鑽にあてる時間もほとんどない。育児によるブランクもある。「このままで私はやっていけるのか?」と、時々不安になることがあります。

本書の中で「内田先生は一人で育児をしているとき、学者として仕事の時間が削られていることに焦りはなかったのでしょうか?」という質問があり、フランスの哲学者の書物を研究をしていたときの体験を語っています。

とにかく難解なその本は、翻訳こそしたものの最初まったく理解できず、2年ほど他の仕事や家事育児に没頭して、寝かせておいたそうです。そして2年後、ふとした瞬間に最初はまったく理解できなかったその内容が、少し理解できるようになっていることに気付きます。

不思議なもので、ただ「生活」しているうちに、気付いたら生活した分だけ僕は大人になっていた。子どもを育てていた2年の間に、僕は家庭の深刻なトラブルにも遭遇したし、病気にもなったし、(中略)いろいろなことを経験しました。その経験の絶対量は、あきらかに結婚する前、子どもができる前とは桁違いのものでした。結婚したあと、僕の人生の「厚み」は増した。

このときに、なるほど人生には無駄がないものだと確信しました。病気になっても、投獄されても、人に裏切られても、裏切っても、何かを失っても、何かを得ても、それらの経験のうちに無駄なものは一つもない。

私も結婚生活と育児で、「え?人生って茨の道じゃない?」と思うことをいくつか経験しました。今も子どもが、家族がいることで自由にできないな、と思うことは腐るほどあります。

でも、多分そういう不自由や一見不幸だったり、トラブルに思えたりすることが、自分を強くしてくれている気もするんです。仕事への焦りが完全になくなったわけではないけれども、人生の大先輩である内田先生がこう書いてくれたことで希望が持てました。

真面目な話はここまで。ここからは結婚名言集です!

何十年一緒にいてもついに相手のことはわからないんですよ。どうせわからないんだったら、「わからない」ということを前提にして、宇宙人と暮らしているつもりでいた方がいい

私も夫と知り合って14年ですけど、未だにわからないです。なぜ食器洗いをした後、シンクを拭かないのか。なぜ使わない電気を消さないのか。なぜ靴下をそのへんに脱ぎ散らかすのか。

でも宇宙人なんだから、わからなくて当然ですよね。「私の星ではシンクは拭くものなので、たまに思い立ったら拭いてくださいね」くらいのテンションでいた方がいいのかもしれません。

結婚生活に限らず他者との共同生活を適切に営む上でいちばんたいせつなことは機嫌がよいということです

ぐぐぐ耳が…耳が痛い!(この場合は目でしょうか!?)

貧しくても、無名であっても、さまざまな物心の不如意があっても、とりあえず「まあ、何とかなるよ」とにこにこ笑っていられるような「機嫌のよい夫婦」によってしか「夫婦が機嫌よく暮らす未来」は築けない。当たり前のことです

その当たり前が難しい!でも、本当にそうですよね。『大人の覚悟』紹介コラムでも書きましたが、自分が機嫌よくいられる条件をいかに自分で整えるか、それが大人の条件だと思います。

人生は修行だぜ!

他にも、

  • 夫婦関係は「おはよう」「いただきます」「ごちそうさま」「いってきます」「いってらっしゃい」「おかえりなさい」「おやすみなさい」7つの挨拶ができていれば合格
  • パートナーが自信をなくしているときは、とにかく「ルックス」と「才能」をほめる
  • 「ちょっと下」を基準にする

など、すぐに役立つユニーク、かつ実践的なアドバイスもたくさんあります。

何だか相手に無性にイライラするとき、「こんなはずじゃなかった…」と思ってしまうとき、冷静な語り口で「それでいいんじゃないかと僕は思いますよ」と、やさしく肩を叩いてくれるような1冊です。とにもかくにも結婚生活は鍛錬の場。

病めるときも健やかなるときも、Keep on 精進!

この記事を書いたライター

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あら井さん

2歳差姉妹を命からがら育てています。逃避手段は読書とジャニーズ。今春から京都に引っ越すので、京都子連れ情報も発信したいと思っています。

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