子どもの創造力を伸ばすなら、大人のアタマも柔軟に。今回はイタリアのデザイナーで美術家のブルーノ・ムナーリの作品に着想を得て、子どもの制作物を試作してみました。

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これからの時代に求められる創造力、発想力、イメージする力

創造力、発想力、イメージする力

教育の現場で最近特に重要視されているキーワードです。近頃は会社でも「新しい発想力で何かを生み出せる人材」が求められるようになってきているようです。

そもそも“創造力”とは「自分の考えや技術で、新しいものをつくりだす力」を意味しています。“発想力”とは「さまざまなものを思いつくことができる能力」をさします。

本来、子どもはそういった能力を潜在的に持っているものですが、大人がどうすればその能力を壊さず、邪魔せず、自然にサポートできるものでしょうか。そこのところを考えてみたいと思います。

創造力を伸ばす遊びとは

子どもの感覚を大事にしながら、子どもの創造力を発展させるにはどのような遊びがいいでしょうか。

先日、2歳児クラスでコマを作りました。円形に切った厚紙の中央に穴を開けて、つまようじを通すだけの簡単なものですが、子どもたちがそれぞれに好きな色を塗って仕上げました。

回るかな?

でき上がったコマが回る様子を見て、子どもたちは大興奮です。塗った色が変化する様子もとても不思議なようで、「わあ~!」と歓声をあげて見守っています。

少し練習すれば子ども達も自分でコマを回せるようになったので、飽きずに何度も繰り返して楽しみました。「もっと作ってみたい!」とさっきとは違う色を試す子もいます。

子どもの目が輝くのは、新鮮な驚きに出合ったとき、何かを不思議に思うとき、何かを試してみたい!とワクワクするとき。そういう気持ちこそが創造力の源泉だと思います。

しかし、そのような体験のためにわざわざ立派な知育玩具を買う必要はありません。どこにでもあるようなボール紙やダンボール、折り紙などがあれば十分楽しめます。

もしかしたら、使い方があらかじめ決まっているおもちゃよりも、自分で「何を作ろう?」「どうやって作ろう?」と考えて工夫をすることが、より創造力を豊かにするのではないかと思います。

先ほど紹介した2歳児の例では、厚紙を円形に切り抜くところまでは教師が行いましたが、子どもが「自分の好きな色や柄に彩色する」という自由度を提供しました。

もっとやってみたいと思う子どもがいろんな色を試せるように、厚紙は人数分よりも多く用意しておいて「どんどんやって良いんだよ」と声をかけました。

子どもの年齢や発達度に合わせて「大人が用意する部分」を調節して「子どもが自由に発想して手を動かせる部分」をなるべく多く残せると良いと思います。

大人の発想も豊かにしてみよう

発想豊かな子どもを育てたいなら、大人のアタマも柔軟にしておく必要があります。

先日、東京世田谷美術館で開催されていたブルーノ・ムナーリ展に行って来たのですが、子どもの創造力を育てる上で参考になることがいくつもありました。

ブルーノ・ムナーリ(1907~1998)はイタリアのデザイナー、美術家ですが、子ども向けの絵本やおもちゃを作ったことでも知られています。彼は子どもが世界を「感覚」で認識していることを念頭に製品を作り、例えば絵本を作る際にはこんなことを考えていたそうです。

こどもの想像力を育てるには、想像するものを固定させず、読むたびに子ども自身の経験で物語を変化させる必要がある

ムナーリの絵本は、言葉での説明を最小限にし、あとは絵や形や色から子どもが自分の物語を考えるようになっています。ページごとに大きさを変えたり、ページの真ん中に切り込みを入れたりする、しかけ絵本の要素も早くから取り入れていました。

特に「触覚」に注力した製品もあります。本のページに麻や毛糸、サンドペーパーのような手触りの違ったものを貼り付けた本などです。

触覚によって言葉では伝えられない多くのものを伝えることができ、私たちはこの感覚を再発見する必要がある

私たち大人は感覚を使うことを忘れている、もしくは感覚が鈍感になっていると思うことが多くあります。大人も感覚を使って物事を感じ取るということを、時々思い出す必要があるのです。

実はモビールもモンテッソーリ教具の一種

幼児期に「感覚」を十分に使うことを重視しているモンテッソーリもムナーリと同じイタリア人ですが、実はムナーリの製品を乳児のプログラムに取り入れているという関係があります。

「ムナリ・モビール」と名付けられたベビーベッドの上につる教具で、ちょうど視覚が育つ時期の赤ちゃんが目で追えるようにしたものです。

赤ちゃんの発達時期に合わせて、白黒のシンプルなものから、立体のものまで段階を経て数種類が用意されています。

生まれて間もない赤ちゃんは視力がまだ弱く、コントラストがはっきりしたものを認識しやすいために白黒のモビール、平面だけでなく立体をとらえられるようになる時期には立体のもの、というように考えられて作られたものです。

常に教具の目的を一つに絞り、無駄な要素を徹底的に排除したモンテッソーリとの共通点が伺えます。

モビールを作ってみよう

本来のムナリ・モビールは赤ちゃんが見て楽しむものです。しかし幼児の場合なら、工作テーマにしてみるのもよいでしょう。

材料は厚紙、だけです。あとはハサミ、コンパス、針、クレヨンなどの道具があればすぐに制作できます。

  1. コンパスで厚紙に印をつける
  2. ハサミで切り抜く
  3. モビールの内側部分に着色する。どんなふうな使い方をするかは子どもの自由な発想次第
    顔に見えるかな?
    猫ちゃんかもしれないね
  4. 着色完了
    表には顔
    裏はハスの葉っぱに
  5. 糸で図形をつなぐ
    糸を針に通し
    内側の図形に針を通す
    糸を切らずにそのまま外側の図形にも針を通す
  6. 糸の長さを調整する
    つるすと無事に図形が回りました!

試作に要した時間は約20分。どうやら成功のようです。中の図形はひし形や五角形、扇型などいろいろと用意しても楽しそうです。

子どもが「どの形がいいかな?」「何に見える?」「どんなふうに色を塗ったらいいだろう」と考える余地が広がります。

こんなふうに大人も楽しみながら子どもの活動を考えられると良いですよね。子どもが楽しんでくれるかな?と想像しながら作ると一層やる気も出るというものです。

世田谷美術館のブルーノ・ムナーリ展はすでに終了していますが、凝り固まったアタマを柔軟にしたい!と思った人は『ブルーノ・ムナーリのデザイン教本 空想旅行』(恵文社)をぜひ手に取ってほしいと思います。

紙の上にランダムに打たれた「点」から発想を膨らませる本です。同じ配置の「点」から幾通りものデザインができる様子は、まさに「内なる子どもの目が開く」体験ができるのではないでしょうか。

この記事を書いたライター

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堀田はるなさん

モンテッソーリ原宿子供の家・モンテッソーリすみれが丘子供の家教員、保育士。アパレル業界、eコマース、金融など様々な業種でのマーケティング業務を経験後、教育の道へ転身。日本モンテッソーリ協会承認モンテッソーリ教員免許取得。著作「子どもの才能を伸ばす最高の方法 モンテッソーリ・メソッド」。

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